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最高裁判所第一小法廷 昭和37年(オ)821号 判決 1965年7月08日

主文

なし

理由

上告代理人木村信一の上告理由第四点および第五点について。

原判決は、防府油脂工業株式会社(以下、単に防府油脂という。)がかねてから一時使用の認可を受けていた本件土地およびその地上建物等を国から買い受けるにつき、右土地の買受代金五七九、〇四〇円の調達に関し、上告人の前身たる山口米油株式会社(以下、単に山口米油という。)から原判示の経緯で融資を受けることとなつたこと、右融資につき、防府油脂は、山口米油との間で、利息および弁済期の定めをせず、ただ弁済期に借受金を返済しないときは、その弁済に代えて本件土地を山口米油に譲り渡すことを特約し、防府油脂はその旨を記載した借用金証書および所有権移転請求権保全の仮登記委任状を、作成日付、弁済期および地番地目等を空白にして山口米油に交付したこと、しかし、防府油脂の第二会社たる日本油業株式会社の経営も困難であつたので、山口米油は、昭和二六年六月上旬頃、前記借用金証書の作成日付を同月九日、弁済期を同年七月一〇日、委任状の作成日付を同年六月一〇日、地番地目等を原判決添付の別紙目録表示のとおり補充して、同月一九日所有権移転請求権保全の仮登記をするにいたつたこと、そして本件土地は、前記原判示の経緯のとおり、従来防府油脂においてこれを使用することを認可されていた関係もあつて、随意契約により、時価に比しはるかに低廉な価格で売買されたこと等を確定している。しかし、原判決によれば本件代物弁済契約成立当時における防府油脂の資産状態を明確にせず、また、その当時における本件土地の時価についてなんら具体的な事実関係を確定することなくして、防府油脂は時価よりもはるかに安い価格で本件土地を取得したのにこれを買入価格に相当する債務の弁済に代えて山口米油に譲り渡したのであるから、本件代物弁済契約は防府油脂の当時における資産状態からみて破産債権者を害するものといわざるをえないと判示している。

ところで、破産法七二条一号にいわゆる「破産債権者を害する」とは債権者の共同担保が減少して債権者が満足を得られなくなることをいうものと解するのが相当であるから、本件代物弁済契約が破産債権者を害するかどうかを判断するためには、右代物弁済契約締結当時、破産会社たる防府油脂がどのような積極財産を有し、どのような債務を負担していたかを明らかにしなければならないのである。したがつて、原判決には、右契約締結当時における防府油脂の資産状態の確定等につき審理不尽、理由不備の違法があるというべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

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