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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)489号 判決 1966年1月20日

上告人

上田龍治郎

右訴訟代理人

島秀一

被上告人

花岡繁一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人島秀一の上告理由第一点について。

論旨は、要するに尾崎良平と林静子間の本件土地の貸借関係を有償的使用関係と認むべきにかかわらず、たかだか使用貸借関係にすぎないとした原審の判断は、経験則に違反し、判例に背反するという。

同一所有者に属する土地とその地上の建物のうち建物のみが任意譲渡された場合は、当該建物の敷地に対する使用権の設定につき明示の契約が存しないときでも、その設定を特に留保するとか、譲渡の目的が建物収去のためである等その他右使用権の設定を認め得ない特段の事情がない限り、当然右敷地使用権設定についても合意があつたものと推認するのが相当である。しかし、この場合の敷地使用権の性格、内容は当該具体的事案によつて決定さるべきものであつて、一概に、これを地上権又は賃借権と解しなければならないものではない。

本件について原審の確定したところによれば、尾崎平作はその所有の土地の上に判示の本宅と本件家屋を所有しており、その妾の林静子に右本宅を贈与したのであるが、平作の死亡後、その相続人尾崎良平は静子との間で右本宅と本件家屋とを交換したものであつて、右交換の際右当事者間で静子が同家尾の敷地たる本件土地を使用するについて何らの取りきめもなされなかつたが、その理由は、良平はかつて自分の父の妾であつた静子を身内のもの同様に扱い、静子が本件家屋を所有して使用する限り、特に、本件土地を無償で使用させるつもりであつたからであるというのであるから、右事実関係のもとにおいては、良平と静子との間には本件土地につきたかだか使用貸借関係があつたにすぎないものであつて、地上権又は賃借権の設定があつたものとは認められないとした原審の判断は相当である。原判決には所論の違法はなく、また所論の大審院判例違反も認められない。論旨は採用できない。

同第二点について。

論旨は、要するに、一旦正当に成立した建物賃借権、従つて敷地使用権は、賃借建物の買受けにより混同によつて消滅する理由なく、また買受以前より不利益を受けることは許されないのに、混同により右建物賃借権は消滅したとした原審判断は、民法一七九条、判例および経験則に違反するという。

しかし、建物賃借人の有する敷地使用権は、敷地所有者に対して建物賃借権より独立して有する機能ではなく、あくまでも賃借権に従たるものであつて、建物の賃借権に包摂されている権能にすぎないものであるから、敷地使用権は建物賃借権と運命をともにするものと解すべきこと当然である。本件の場合原判示によれば、上告人は林静子より本件家屋を買受けてその所有権を取得したというのであるから、上告人の本件家屋階下西半分に対する賃借権は混同により消滅した旨の原審の判断は、他に特段の事情のない本件においては、是認できる。従つて、右家屋賃借権に附随するものとしての敷地使用権もまた消滅したものといわなければならない。これと同旨の原判決には所論違法はなく、所論引用の判例は本件と事実を異にするものである。論旨は採用できない。

同第三点について。

本件に顕われた全証拠を検討しても被上告人の本訴請求が権利の濫用であることを肯認することができる資料はないとした原審の判断は、相当として首肯でき、原判決には所論違反は認められない。論旨は、原審の認定しない事実を主張し、これを前提として原判決を非難するものであつて、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹告 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

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