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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)618号 判決 1965年1月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高木定義の上告理由第一点について。

被上告人森山志郎または他の被上告会社の代理人が、上告人に対し上告人主張の債務を引受ける意思表示をしたことを認めるに足る確証はなんら存しない旨の原審の認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む、以下同じ)挙示の証拠及び記録に徴して首肯できる。論旨は、原審の認定しない免責的債務引受契約成立の事実を前提として、被上告人森山の不法行為をいい、被上告会社の民法七一五条による責任を云々するものであり、所論引用の判例も本件に適切でないから、いずれも採用できない。

同第二点について。

所論は、すべて原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するにすぎず、採用できない。

同第三点について。

被上告会社の下山田鉱業所労務係員である被上告人森山は、同鉱業所鉱員であつた訴外〇〇〇〇が上告人その他の者に対し金銭債務を負担しその支払をしないでいることを知つており、〇〇が退職を申し出で右鉱業所から大阪に転居するに際し、同人から「みじめな姿で出発するのを人に見られたくないから、人目につかぬよう家財道具をそのままにして出発するから、荷物はあとから荷造りして送つてもらいたい」と依頼されて承諾し、そのとおり荷造りしたということがあつたからといつて、右〇〇の退職が自発的な希望によるものであり、〇〇の右行動も被上告人森山が積極的に〇〇を動かせてそうさせたものではない等の原判示の事情の下では、右によつて被上告人森山が違法に第三者たる上告人の債権を侵害したことにはならないとした原審の判断は、正当である。被上告人森山の労務係員としての善良なる管理者の注意義務違背や職務上の義務違背をもつて上告人の権利を侵害したとする所論は、独自の見解として採り得ないし、右森山の違法行為を前提として被上告会社の民法七一五条による責任を主張する所論も前提を欠き、採るを得ない。

同第四点について。

論旨は、原判決が甲二号証の一、二の証拠力につきなんら判断を与えていないというが、原判決は右書証についてその真正に成立したことを認め、これと他の証拠とを綜合した上その結果によつて事実の認定をしていることが判文上明らかであるから、右所論は採用できない。また、確定日附ある文書は、その文書に記載された事実が存在したものと一応推測されるとの所論は、独自の見解であつて、この所論を前提とする論旨もまた採用できない。

同第五点について。

原判決は大鉱業権者の労務係員を保護するが如きものであつて正義の観念に反するとの所論は、原判決を正解しないで独自の推断を述べるにすぎず、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠)

《当事者》

上告人 佐藤庄太郎

右訴訟代理人弁護士 高木定義

被上告人 古河鉱業式会社

右代表者代表取締役 楢原良一郎

被上告人 森山志郎

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