最高裁判所第一小法廷 昭和39年(行ツ)50号 判決 1967年8月24日
東京都練馬区桜台二丁目四〇番地
上告人
岡部勇二
同都千代田区霞が関一丁目一番一号
被上告人
国
右代表者法務大臣
田中伊三次
右当事者間の東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第二九〇八号登録税法無効確認等請求事件について、同裁判所が昭和三九年三月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第一点について。
論旨は、原審における本件の審理判決はあまりにも速かであつて、一般に必要と認めうる程度の合議審判を行なつたものとは認めがたいとし、原判決に破棄に値する訴訟手続法規の違背あるものと主張する。
しかし、本件訴訟の経過につき原審の訴訟記録に徴すれば、原審には何ら所論の違法はなく、論旨は理由がない。
同第二点について。
論旨は、要するに上告人の本件登録税債務は徴収できないものと主張し、原判決は登録税法の解釈を誤つたものというにある。
しかし、原審の登録税法七条、同一七条の二に関する判断は正当であつて、原判決(引用の第一審判決を含む)には何ら所論の違法はない。従つて論旨は採用するに由がない。
同第三点および第四点について。
論旨は、原判決が上告人の登録税法七条の規定の無効確認の訴を不適法と認めたのを失当とし、かつ右七条の規定を違憲と主張し、その違憲審査を求めるというにある。
本件において、登録税法の右規定の存在が直接上告人の具体的な権利義務に影響を与えるものでないことは、原判決引用の第一審判決の判示するとおりである。具体的紛争を離れて法令自体の効力を裁判の対象とすることは裁判所の権限に属しない。また最高裁判所は、法令の合憲性を抽象的に審査決定する特殊な権限を有するいわゆる憲法裁判所ではない(最高裁判所昭和二七年一〇月八日大法廷判決、民集六巻九号七八三頁、昭和二八年四月一五日大法廷判決、民集七巻四号三〇五頁参照)。してみれば、所論の訴を不適法とした原判示は正当であり、また違憲を理由にしたからといつて、法令自体の効力の裁判が許されることになるものでもない。
論旨はいずれも理由がない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)
○昭和三九年(行ツ)第五〇号
上告人 岡部勇二
被上告人 国
上告人岡部勇二の上告理由
(上告の趣旨第二項について)
第一点 原審裁判所は、その審判手続において、誠実な職務の執行を行わず、違法な裁判をして、上告人が控訴審において有するところの正当な審判を受ける権利を違法に侵害したものであるから、原判決は訴訟手続法規の違背があるものとして破棄され、本件上告は原審に差戻されなければならない。
一、本件上告事件の原審における第一回口頭弁論期日は、昭和三九年三月三日午前一〇時に開廷され、上告人はその日に控訴理由書及び準備書面をはじめて提出して陳述した。
二、右弁論は五分ばかりで終了した。すると、原審裁判所は合議のため退廷して、僅か三分位合議した後、裁判長は被控訴人に対し、準備書面を本日付で後日提出するように指示した後、弁論を終結して、判決言渡期日を半月後の同月一九日に指定した。
当時、東京高裁におけるタイプ印書は約二週間を要する状況にあつたのであるから、原審は一般に必要と認められる程度の合議審判を行わずに、原判決の理由のとおり、誠に良心のない判示をして、でたらめな判決をした。
三、本件事件は行政事件であるところ、わが国の裁判官は、昔は行政事件を取扱わなかつたので、行政法につき識るところが尠いのであるから、本件事件については慎重に審判しなければならないところ、原審裁判所の職務の執行は誠に不真面目で、裁判官としての良心をもつた誠実な職務の執行とは、外見的にも内容的にも認められない。
四、してみると、原審裁判所は、本件控訴につき適法に審理判決したものとは認められない。換言すれば、原判決はその内容がないものであるから、判決がなかつたものと同一である。
よつて、控訴審において更に適法な審判をするため、本件上告を原審に差戻さなければならない。
五、御庁が、仮りに、原審裁判所が判決と名のついた書面を作成したのであるから、それで十分であるとして、原審裁判所のような不誠実な職務の執行を正当且つ適法として、これを容認したならば、下級裁判所の裁判はでたらめとなり、司法の権威は失墜し、訴訟手続の違背に対する不服申立につき、上告審の存在理由は全く失われるものと認める。
(上告の趣旨第三項について)
第二点 原審裁判所は、行政法、殊に税法及び国の会計法規を理解しないため、登録税法の解釈を誤り、違法な判決をしたものであるから、原判決は破棄されなければならない。
一、原審裁判所は、税法について全く無知であるため、原判決のような違法な裁判をしたが、原判決が違法である明白な理由は、上告人が、本件控訴につき、控訴棄却になつて、仮りに右判決が確定したとしても、被上告人国は、上告人から本件登録税三、〇〇〇円を徴収する方法がないことである。
登録税不納付に対する徴税は、正当な機関が、課税要件を確定し、正当な手続で行うものであるから、原判決が確定した後において、上告人が本件登録税を納付しようとしても、また、国が本件登録税を徴収しようとしても、原判決は何等の効力をも持たないのである。
従つて、原審は、徴収することができない登録税債権が存在すると判決したが、右は何等存在価値なき無効な判決である。
二、被上告人国は、本件登録税については上告人の住所地の所轄税務署長がこれを徴収する権限と義務があることを主張し、原審は右を適法としているが、上告人の住所地の練馬税務署長は、具体的に右のような権限を有しないし、義務もないとしている。
三、被上告人国が、まごまごしていると、上告人の納税義務は会計法上の五年の時効により消滅する。それ故、被上告人は、その職務を誠実に執行しなければならない憲法上の責任があるものと認める。
四、なお、原審の判断が違法である理由は、上告人が第一審及び原審における準備書面において詳述したとおりである。
第三点 原審は、上告人が登録税法(以下単に法という。)七条の規定が無効であるとの確認を求める請求を却下したが右は違法である。
右違法の理由は、第一審判決における事実記載のとおりであり、その詳細は準備書面で陳述している。
一、原審は、法七条は死文化したものではなく、現行法の解釈として、当然に、上告人は本件登録税の納付義務があると判示している。
二、しかしながら、登録税法そのものが弁護士法を全く無視し、ひいては弁護士会及び弁護士を違法に規定していることが明白であるのであるから、法七条の存在することは、原判示のように被上告人の主張を適法化するものではない。むしろ、法七条の存在は原判決が明白に違法であることを認定せしめるものである。
三、法一九条は、その七号において、日本税理士会連合会等を非課税団体として規定しているが、日本弁護士連合会及び弁護士会(以下日弁連等という。)については何等の規定をも設けていない。
従つて、右の違法な立法事実は、法七条が無効であることを立証するのに十分である。
四、日弁連が行政庁であることは、行政不服申立ての審査庁は日弁連であり(弁護士法一二条)、これに対する行政訴訟の第一審は東京高等裁判所である(同法一六条)ことによつて明白である。換言すれば、日弁連は、第一審の地方裁判所と同等の権限を有している国家的機関である。
五、弁護士法は、日弁連の機関を構成する職員を「法令によつて公務に従事する職員とする」と規定している(同法三五条、五〇条、七一条)。
わが国の公務員には、国家公務員及び地方公務員のほかに日弁連等に属する公務員が存在するのであつて、右条項のみでも日弁連等が国家的機関であることは明白である。
なお、法人税法四条二号に規定する公社公団等の職員は、いずれも「公務に従事する者と看做す」と規定されているものである。
六、以上のとおりにて、日弁連等は国の権限の委譲を受けた公法人であり、わが国唯一の職能公共団体である。
わが国の裁判官で職能公共団体を正当に理解している者は、御庁の田中二郎裁判官唯一人であると認める。
この職能公共団体の性質、権限等が理解できたならば、上告人の請求は当然に認められるものである。
七、なお、被上告人は各種税法において、日弁連等を故意に、違法に、公益法人と認定して、他の公益法人と同等に規定しているが、右は明白な誤りである。右各種税法には、法人税法五条、所得税法三条、地方税法七二条の五及び資産再評価法三九条がある。
右のような違法立法は、被上告人の現職員がわが国法を満足に理解していないことを表明しているものである。従つて、被上告人の主張は誤りである。
第四点 登録税法第七条は憲法違反の条項であると認めるから、御庁の憲法八一条による法令審査権の発動を請求する。
一、上告人は、法七条が存在するため、法七条が憲法に適合しない違法な法条であるにも拘らず、現在、本件登録税三、〇〇〇円を納付しなければならない租税債務を負担すると共に、将来登録換等に要する登録税を負担しなければならない現在の危険がある。
上告人は現在の危険即ち不利益があるからこそ、法七条の無効確認を請求しているのである。
そこで、上告人は、被上告人に対し、法七条の無効確認の請求をしたのであるが、原審は、憲法に違背して、これを却下したのである。
二、日弁連等が職能的公共団体であることは現行法上明白なところである。然るに、被上告人は、弁護士の憲法上の職能を弱体化し、違法徴税を敢行しようとして、故意に違法立法をしているのである。
その消極的違法立法の一が法七条である。
三、租税法律主義は、法律の規定がありさえすれば租税を賦課徴収できるということではなく、実質課税の原則をその前提としているのである。
従つて、実質的に徴収することができない本件登録税を、たまたま立法上の手違いのために法七条が存在するからとの理由だけで徴収することはできないのである。
四、そこで、上告人は、御庁に対し法七条が憲法に適合しない違法な条項であることの審査を請求するものである。
以上