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最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)1081号 判決 1967年11月30日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松本才喜、同荻野弘明、同木下達郎の上告理由第一点ないし第六点について。

所論の諸点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認できないものではなく、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採ることができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官松田二郎、同岩田誠の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

裁判官松田二郎の反対意見は、次のとおりである。

原判決(引用の第一審判決を含む。以下同じ)は、慰藉料請求権の相続に関し、本件の被害者光一において、慰藉料請求権行使の意思表示をしたと否とにかかわらず、右慰藉料請求権は相続の対象となるものと解するを相当とする旨判示したうえ、右光一が生前に慰藉料請求の意思を表明した等これが通常の金銭債権に転化したと認められる事情について何らの主張および立証のない本件において、同人の両親である被上告人らに対し、慰藉料請求権の相続を肯定している。しかしながら、慰藉料請求権は、その本質上被害者に専属する権利であつて、加害者が被害者の慰藉料請求に対し、契約または債務名義により一定額の金員を支払うべきものとされた場合等、それが通常の金銭債権と多く択ぶところなく、したがつてこれに転化したものと認められるに至つた場合にのみ、相続の対象となるものと解すべきである。(その理由は、当裁判所昭和三八年(オ)第一四〇八号、昭和四二年一一月一日言渡大法廷判決における私の反対意見と同一であるから、それをここに引用する。)そうであれば、右光一の慰藉料請求権が通常の金銭債権に転化したことについて何ら判示することなく、右慰藉料請求権が当然相続の対象となるとした原判決は、その部分に限り、本件上告理由の判断に立ち入るまでもなく、違法であつて破棄を免れず、右請求に関する部分は、さらに右の点を審理するため、これを原審に差し戻すべきものである。

裁判官岩田誠は、裁判官松田二郎の右反対意見に同調する。

(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠)

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