最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)353号 判決 1969年12月18日
上告人
山下一夫
代理人
山中伊佐男
復代理人
田辺幸一
被上告人
村田糺男
主文
原判決中上告人敗訴部分を破棄し、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
上告代理人山中伊佐男の上告理由第二点について。
所有権に基づいて不動産を占有する者についても、民法一六二条の適用があると解するのは、当裁判所の判例の採用する見解である(当裁判所第二小法廷判決・昭和四〇年(オ)第一二六五号・同四二年七月二一日民集二一巻六号一六四三頁)したがつて、不動産の所有者が第三者に対しその不動産を売却した場合においても、その買主が売主から右不動産の引渡を受けて、みずから所有の意思をもつて占有し、(その占有開始の時から)民法一六二条所定の期間を占有したときには、買主は売主に対する関係でも、時効による所有権の取得を主張することができると解するのが、相当である。けだし、このような契約当事者においても、その物件を永続して占有するという事実状態を権利関係にまで高めようとする同条の適用を拒むべき理由はなく、このように解したとしても、その契約により発生すべきその余の法律関係については、その法律関係に相応する保護が与えられており、当事者間の権利義務関係を不当に害することにはならないからである。
しかるに、原判決は、上告人の時効による所有権取得の主張事実について、なんら判断を加えなかつたのは、違法というべきであり、その違法は、原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
よつて、その余の論旨に対する判断を省略して、原判決中、上告人敗訴部分を破棄して、本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)