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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(あ)2022号 判決 1967年5月25日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人笠原忠太の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

しかし、職権により調査するに、原判決は、被告人および検察官の各控訴趣意に対し、いずれもその理由がなく、一審判決にはなんら誤りはない旨判示しながら、原審において、新たに追加された訴因、罰条について、犯罪の成立が認められるということのみを理由に、一審判決には、結局において法令の適用に誤りありとして、これを破棄していることが明らかである。ところで、一審判決に、事実誤認ないし法令の違反があって、これが破棄されることが予想される場合に、控訴審裁判所が、検察官の訴因、罰条の追加変更を許すことは違法とはいえないのであるが、控訴審裁判所が右追加変更された訴因、罰条について審理判決することのできるのは、あくまでも、一審判決に事実誤認ないし法令違反があることを理由に控訴審でこれが破棄されることが前提とならねばならず、破棄が相当とされた場合に始めてこれについて審理判決することができるものと解すべきである。一審当時の訴因、罰条からみて、一審判決になんら誤りが見出されないのに、新たに訴因、罰条が追加変更されたことを理由に、その新しい訴因について一審判決がその存在を認めず罰条を適用しなかったことが結局において一審判決の事実誤認ないし法令違反になるとして、これを破棄することは許されない。なんとなれば、現行刑訴法上の控訴審は、刑訴法三九三条二項等の場合を除き、本来その性質は、第一審判決になんらかの過誤があるか否かを審査するいわゆる事後審査をする裁判所であるからである。然るに本件において原審は、一審当時の訴因罰条について一審判決にはなんら誤りはないとしながら、新たに追加された訴因、罰条について犯罪の成立が認められるが故に一審判決に誤りがあるとしてこれを破棄しているのであって、原判決は、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、刑訴法四一一条一号、四一三条本文により、原判決を破棄し、本件を原裁判所である東京高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 大隅健一郎)

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