最高裁判所第一小法廷 昭和41年(あ)2622号 決定 1967年3月16日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人寺井俊正の上告趣意について。
所論のうち、違憲(三八条違反)をいう点は、原判決は、所論のように、被告人の捜査官に対する供述調書に警音器を吹鳴したとの記載がないということを理由にして、被告人が警音器を吹鳴しなかったという事実を認定しているわけではなく、挙示の証拠を綜合して右事実を認定したと認められるから、所論は前提を欠き(引用の判例は、証拠に基づかず事実を認定した場合に関するもので、本件とは事案を異にする。)、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも上告適法の理由に当らない。(なお、本件のように、対向車が、被告人の運転する車両の進路である道路の左側部分を通り容易に右側に転じないような特殊な場合には、被告人が交通法規に従ってそのまま進行すれば対向車と衝突し、死傷の結果を生ずるおそれがあることが予見できるのであるから、自動車運転者としては、まさに警音器を吹鳴して対向車に避譲を促すとともに、すれ違っても安全なように減速して道路左端を進行するか、一時停車して対向車の通過を待って進行するなど、臨機の措置を講じて危害の発生を未然に防止すべき注意義務があるものといわなければならない。しかるに、原判決の是認した第一審判決認定の事実によると、被告人は、わずかに減速しただけで、右のような措置に出なかったのみでなく、対向車と十数メートルの距離に接近した際、ハンドルを右にきって対向車の前に進出したというのであるから、被告人に過失があるものとしたのは相当である。)
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)