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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)300号 判決 1967年9月21日

上告人

横山広見

右代理人

土井勝三郎

被上告人

早瀬勝一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人土井勝三郎の上告理由について。

原判決(その訂正・引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠によると原判決の事実判断は、これを肯認することができる。右の事実によると、その要旨は、次のとおりである。すなわち、本件建物は、昭和一四年に古材を用いてアパートとして建築され、昭和二九年に台風の被害により屋根の約三分の二を修理したが、同三三年六月頃周囲の土地の地盛と家屋の新築・改築によりアパートのみが他より低くなり、いわゆるくぼ地に建てられたような状態となり、床下に水がたまり、便所の汚水が床下に流れ、きわめて不衛生で、柱の下の部分は床板すれすれのところまで侵水し、水につかつていた柱の部分はほとんど腐蝕し、屋根もかなりいたみ、壁は下見板が腐り、南西側の非常階段は腐朽破損して使用不能の状態で、玄関の土台石も腐蝕して戸の開閉ができず、建物を支える柱の下部の腐蝕により、建物が北東および北西側に傾き倒壊防止の支え棒がされ、消防署から建物の改修を要望されていた。そこで、上告人は、アパート居住者を修理後再入居の約で立ち退かせ、同三三年六月初旬頃から同年七月下旬頃まで、二箇月間にわたり、右アパートを修繕した。その内容は、くぼんで水のたまつている土地部分に砂を埋め布コンクリートの基礎にブロツクを積みあげてセメントでかためて基礎を約二尺あげ、その上に家屋の土台を据え付け、支柱の腐蝕部分を切りとつてつぎたし、増築部分には新しい柱を入れ、内壁の破損部分には新しいベニヤ板を補い、外壁部分をラス・モルタル塗りとし、軒裏・屋根を板張・柾葺から亜鉛鍍金張りとし、玄関を板張土間から腰モルタル仕上げコンクリート土間とする等のものであつた。そして、上告人が本件修繕をした同三三年六月当時同アパートは相当程度腐朽しており、その補修は必要であつたが、そのままの状態でも使用に耐ええたので建物としての社会的経済的効用を失わず、また朽廃の域に達していなかつたものであるが、もし本件修繕をしなかつたとすると、その修繕時である同三三年六・七月から三年後の同三六年七月頃には居住の用に耐えず、いわゆる朽廃の状態に達し、また、本件修繕工事は建物保存のため当然予想される通常の修繕といえず、本件建物を放置すると三年位しかもたなかつたのが、本件修繕により耐久年数を二〇年以上に増加したものである。本件では、土地所有者たる被上告人は、上告人に対し本件修繕工事のされる一月あまり前の同三三年四月二四日ハガキで土台直しなどの根本的修繕をしないよう申し入れ、さらに修繕工事の完成前の同年七月一〇日に大改修を理由として借地契約を解除する意思表示をして、前記工事に異議を表明したというのである。

右の事実関係における本件建物築造後の経過、本件建物の修繕前の状況、本件修繕の実態、修繕当時の老朽の度合など、とくに土地所有者の被上告人が上告人に対し工事前に反対の意図を表明しかつ工事完成前にも異議を表明していたことにかんがみると、本件借地契約は、本件修繕工事がなければ朽廃すべかりし時期である同三六年七月末日にはおそくとも終了したものと解することができる旨の原判決の判断は、当審も正当として是認することができる。

原判決には、結局、所論のような違法はなく、所論は採用しがたい。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田 誠 大隅健一郎)

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