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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)687号 判決 1967年6月22日

上告人

村上寿雄

上告人

村上暢弘

右両名訴訟代理人

身深正男

被上告人

田中判治

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人身深正男の上告理由について。

賃貸借の目的物たる家屋が滅失した場合には、賃貸借の趣旨は達成されなくなるから、これによつて賃貸借契約は当然に終了すると解すべきであるが、家屋が火災によつて滅失したか否かは、賃貸借の目的となつている主要な部分が消失して賃貸借の趣旨が達成されない程度に達したか否かによつてきめるべきであり、それには消失した部分の修復が通常の費用では不可能と認められるかどうかをも斟酌すべきである。

ところで、本件建物は、大正末期頃建築された建物を昭和二六年六月頃戦災復興区画整理のため現在地に移築されたものであつて、後記類焼を受けた昭和三八年一一月二六日当時すでに相当古い建物であり、上告人寿雄は被上告人からこれを昭和二七年一一月一七日賃借し、その二階部分を写真の写場、応接室とし、階下部分を住居として使用し、写真館を経営していたところ、昭和三八年一一月二六日本件建物の隣家から出火により、本件建物は類焼をうけ、そのため、スレート葺二階屋根と火元隣家に接する北側二階土壁は殆んど全部が焼け落ち、二階の屋根に接する軒下の板壁はところどころ燻焼し、二階内側は写場、応接室ともに天井の梁、軒桁、柱、押入等は半焼ないし燻焼し、床板はその一部が燻焼し、二階部分の火災前の建築材ほとんど使用にたえない状態に焼類し、階下は、火元の隣家に接する北側土壁はその大半が破傷し、火災の直接被害をうけなかつたのは、火元の隣家に接する北側の階上階下の土壁を除いた三方の外板壁と階下の居住部分だけであり、本件建物は罹災のままの状態では風雨を凌ぐべくもない状況で、側壊の危険さえも考えられるにたち至り、そのため火災保険会社は約九割の被害と認めて保険金三〇万円のうち金二七万円を支払つたこと、また本件建物を完全に修復するには多額の費用を要し、その将来の耐用年数を考慮すると、右破損部分を修復するよりも、却つてその階上階下の全部を新築する方がより経済的であること、もつとも、右のとおり、本件建物の階下居住部分は概ね火災を免れていて、全焼とみられる二階部分をとりこわし、屋根をつけるなどの修繕をして本件の建物を一階建に改造することは物理的に不可能ではないが、一階建に改造したのでは、階下部分の構造や広さに鑑み、写真館として使用することが困難であることは、原判決が、適法に認定判断したところである。

この認定事実を前記説示に照らして考えれば、本件建物は類焼により全体としてその効用を失ない滅失に帰したと解するのが相当である。してみれば、本件建物が滅失したことにより被上告人と上告人寿雄との間の賃貸借契約は終了したとして被上告人の上告人らに対する本訴請求を認容した原判決は正当であつて、何ら所論の違法はない。論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎)

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