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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(行ツ)92号 判決 1967年5月25日

上告人 松隈和美

被上告人 福岡法務局西新出張所 登記官

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人上野開治の上告理由について。

論旨は、本件登記が実体法上の権利関係と符合するとしてその効力を是認した原審の判断が不動産登記法四九条二号、七号、八号および一〇〇条の解釈を誤つたものである、というのである。

しかし、上告人は、本件土地につき訴外長谷部円子のためになされた保存登記がその所有者でない右訴外人の申請によつてなされたものであると主張して、登記官を相手どり、右登記の取消を求めるものであること、記録上明らかである。ところで、登記の申請が不動産登記法四九条各号の一に該当する場合は、登記官は決定をもつて申請を却下すべきであるが、かかる申請も受理されて登記が完了した以上、同条一号または二号に該当する場合を除き、その登記が実体法上の権利関係と符合するかどうかを論ずるまでもなく、登記官において職権で当該登記を抹消することができないのはもとより(同法一四九条ないし一五一条参照)、登記官に対しその取消を訴求することも許されないものというべく(昭和三七年三月一六日最高裁判所第二小法廷判決、民集一六巻三号五六七頁参照)、また、右四九条二号の「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」とは、主として申請がその趣旨自体において既に法律上許容すべからざること明らかな場合をいうものと解するのが相当であつて(昭和六年二月六日大審院決定、民集一〇巻一号五〇頁参照)、上告人主張のごとく登記申請人が実体法上の権利者でないというがごとき場合は、これに含まれないものといわなければならない。従つて、所論のような場合は、当該登記名義人を被告として登記抹消訴訟を提起するほかなく、登記官を被告として登記の取消を求める本件訴訟は、その登記が実体法上の権利関係と符合するかどうかを論ずるまでもなく、請求自体理由がないとして、これを棄却すべきである。

されば、原審の所論判断には、登記が実体法上の権利関係と符合するかどうかにつき判断を示した点において妥当を欠くきらいはあるが、本訴請求を棄却した第一審判決を是認したその結論は、結局、正当であり、論旨は、すべて採るを得ない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隈健一郎)

上告理由<省略>

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