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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(あ)1078号 決定 1968年1月18日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人梨木作次郎、同豊田誠、同吉田隆行の上告趣意第一は、判例違反をいうが、引用の判例は事案を異にして本件に適切でなく、同第二は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、同第三は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。(被告人らが、会社当局に対するいわゆる闘争手段として、四つ切大の新聞紙等に要求事項を記載したビラを、会社本社の二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側および同室内部の壁に約五〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約三〇枚を、それぞれ糊を用いて貼りつけ、これらのビラの大部分を会社側がはがしたあとに合計五〇枚の同様のビラを貼りつけ、更にその大部分を会社側がはがしたあとに合計六〇枚の同様のビラを貼りつけ、更にその一部分を会社側がはがしただけで相当数が残存しているところに重複して合計約八〇枚の同様のビラを貼りつけた行為は、原審の認定した事実関係のもとにおいては、右建造物および器物の効用を減損するものと認められるから、右行為が刑法二六〇条および二六一条の各損壊に該当するとした原審の判断は、正当である。)

よつて、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)

弁護人梨木作次郎、同豊田誠、同吉田隆行の上告趣旨

第一、判例違反

(一) 原判決は最高裁判所第三小法廷が昭和三九年一一月二四日被告人内山茂樹に対する建造物侵入軽犯罪法違反被告事件に関してした判断(最高裁判所判例集第十八巻第九号刑事(二五六頁)以下)と相反する判断をしている。

(二) 原判決の(罪となるべき事実)第一の各所為はいずれも建造物と器物とに糊を用いてビラを貼りつける行為であるが、原判決(罪となるべき事実)は右各行為をただちに「以つて建造物を損壊すると共に、(中略)器物を損壊し」たものとし前者を刑法二六〇条に、後者を同法二六一条に該当すると判断している。

(三) 前掲最高裁判所の判決は本件に類似する労働組合運動の過程でなされた建造物や器物へのビラ貼りが建造物、器物の各損壊罪に該らないとした原審判決を維持したものである。

右事件と本件との最大の相違点は行為の主体が公共企業体等労働関係法の適用を受ける国鉄労働組合の構成員であり、本件行為の主体は民間の労働組合の構成員であつた点に在る。

前掲最高裁判所の判決は労働運動の過程で行なわれるビラ貼りはつねに損壊罪を構成しないと判断したものとは即断できないとしても、少くとも計六四枚ビラを国鉄駅の駅長室内の壁や戸などに貼りつけることが建造物、器物の損壊罪に該当しないこともあると判断したものであることは疑を容れる余地のないところである。

換言すれば、罪となるべき事実としては、単に「何枚のビラをどこに貼つた」とするのでは、損壊罪の摘示としては不完全であるというほかない。

(四) 本件第一審判決の軽犯罪法一条三三号と刑法二六〇条、二六一条との区別に関する見解は、右最高裁判所判決の基底をなす見解と同一であつた。これを排斥した原判決はこの点でも判例に反する判断をしたものといわねばならない。<以下省略>

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