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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)30号 判決 1968年4月04日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人井上吾郎の上告理由一および四ならびに上告人の上告理由一、三および六ないし九について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。)挙示の証拠関係に照らして、是認するに足りる。なお、記録に徴すれば、所論証人北山あや子の証言内容は本件田地に関する請求に関係のないものであることが明らかであるから、原判決がこれに言及しなかつたことは当然である。また、上告人名義の論旨中には本件売買について錯誤による無効を主張する点もあるが、原審において審理判断を経ない事項であるから、上告適法の理由とならない。原判決に所論の違法はなく、論旨はすべて採用することができない。

上告代理人井上吾郎の上告理由二について。

共有者の一人が、権限なくして、共有物を自己の単独所有に属するものとして売り渡した場合においても、その売買契約は有効に成立し、自己の持分を越える部分については他人の権利の売買としての法律関係を生ずるとともに、自己の持分の範囲内では約旨に従つた履行義務を負うものと解するのが相当である。したがつて、これと同趣旨に出た原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。それゆえ、論旨は採用することができない。

上告代理人井上吾郎の上告理由三および上告人の上告理由一〇について。

本件売買契約の成立に関する原審の事実認定が是認さるべきことは、さきに説示したとおりである。ところで、農地の売買は知事の許可がないかぎり所有権移転の効力を生じないけれども、該契約はなんらの効力をも有しないものではなく、特段の事情のないかぎり、売主は知事に対し所定の許可申請手続をなすべき義務を負担し、もしその許可があつたときは買主のため所有権移転登記手続をなすべき義務を負担するに至るものと解するのが相当である(当裁判所昭和三九年(オ)第一三九七号、同四一年二月二四日第一小法廷判決、裁判集民事八二号五五九頁参照)。そして、かりに本件土地および買主たる被上告人につき所論のような事情が存するとしても、農地所有権の移転の許否は、許可の申請がなされたうえで、その時の事情に基づき知事の決するところであるから、上告人の負担する右許可申請手続をなすべき義務の存否に影響を及ぼすものではない。また、本件訴訟の経過および原審の認定した事実関係に照らせば、本訴において被上告人が上告人に対し、知事の許可があることを条件として本件土地の所有権移転登記手続および明渡を求める必要が現に存するものとした原審の判断は、正当である。それゆえ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決の判断を非難するものにすぎず、採用するに足りない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎)

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