最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)380号 判決 1967年12月14日
上告人
堀田信
右代理人
加藤康夫
比志島竜蔵
被上告人
野田幸夫
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人加藤康夫の上告理由第一点、一について。
原審の認定したところによれば、本件家屋はもと訴外平林譲の所有にかかり、同訴外人においてこれを上告人に賃貸していたところ、被上告人は昭和三八年八月一日右訴外人より右家屋を買受けて上告人に対する賃貸人たる地位を承継したが、同月七日同訴外人より昭和二九年度より同三八年七月末日までの右家屋についての延滞賃料債権を譲受け、同訴外人はその旨を上告人に通知したこと、ここにおいて被上告人は上告人に対し右延滞賃料の支払を催告したが上告人がこれに応じなかつたので、同三九年九月一〇日上告人に対し本件家屋明渡請求の訴訟を提起し、その訴の繋属中、同年一二月八日右家屋について所有権移転登記手続を経由し、次いで該訴訟の法廷において上告人に対し賃料不払による賃貸借契約解除の意思表示をしたというのであつて、右事実は原審の挙示の証拠によつて肯認し得るところである。しかして右認定の事情の下においては、被上告人が本件家屋について所有権移転登記手続経由前にした延滞賃料支払の右催告は、契約解除の前提としての催告と認め得るから、被上告人のした前記解除の意思表示により本件家屋についての賃貸借契約は有効に解除されたものというべきである。原判決には結局所論の違法はなく、所論は採るを得ない。
同第一点、二について。
原判決の確定した事実によると、被上告人は本件賃貸借の未払賃料の支払を再三にわたつて催告したにすぎず、所論のような金額を明示していないのみならず、かりに所論のような金額を特定させていたとしても、催告金額金二三万三〇〇〇円と未払賃料額金一六万七〇〇〇円との間には金六万六〇〇〇円の差しかなく、この程度の金額の差では、いまだもつていわゆる過大催告として催告の効力をすべて否定することはできない。原判決には所論の違法はなく、所論は採るを得ない。(なお所論の中には、未払賃料債権の一部は、短期時効により消滅しており、過大催告の程度は、ますます増大するとの主張もあるが、上告人が、このような消滅時効を採用した事実は記録上うかがわれないから、この点の主張も前提を欠き適法な上告理由とならない。)
同第一点、三について。
原判決が適法に確定した事実関係のもとでは、本件賃貸借の解除を有効とした原判決の判断は、結局正当としてこれを是認することができること前記説示のとおりである。原判決には、所論のような違法はなく、所論は、原審の認定しない事実を前提として原判決を非難するものであり、採るを得ない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎)