大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)568号 判決 1967年12月21日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人石原秀男の上告理由第一点、一ないし三について。

所論原審の各認定は、原判決挙示の証拠に照らして肯認することができる。しかして、原審は、訴外真貝正二の行為を、上告人と訴外池宮との間の斡旋行為であると認定しているのであるから、所論の契約の性質のいかんは、原判決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するに帰し、採用できない。

同第一点、四について。

被用者のなした取引行為が、その行為の外形からみて、使用者の事業の範囲内に属するものと認められる場合であつても、その行為が被用者の職務権限内において行なわれたものでなく、しかも、その行為の相手方が右事情を知りながら、または少なくとも重大な過失により右事情を知らないで、当該取引をしたものと認められるときは、その行為にもとづく損害は、民法七一五条にいわゆる「被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害」とはいえず、したがつて、その取引の相手方である被害者は右使用者に対して、その損害の賠償を請求しえないと解すべきこと、当裁判所の判例の示すところである(最高裁判所昭和三九年(オ)第一一〇三号、昭和四二年一一月二日第一小法廷判決参照)。されば、これと結論を同じくする原判決は正当であつて、所論は採用できない。

同第二点について。

原審は、訴外真貝の行為を、個人として上告人と訴外池宮との間の取引を斡旋したものと認定しているのであるから、原審が右行為について、表見代理に関する民法一〇九条、一一〇条を適用しなかつたのは当然である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第三点について。

所論原審の証拠判断は、原審の取り調べた証拠関係に照らして肯認することができる。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難するに帰し、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例