最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)890号 判決 1968年9月12日
上告人
高田新七郎
代理人
田中一男
被上告人
服部稔
ほか四名
右五名代理人
古井戸義雄
村瀬尚男
被上告人
田渕やえ
主文
原判決を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人田中一男の上告理由について。
本訴のうち、上告人が被上告人やえを除くその余の被上告人ら(以下「被上告人五名」という。)に対して本件土地の所有権に基づき本件建物からの退去ないしその収去による本件土地の明渡を求める請求については、被上告人五名から、抗弁として、本件土地の占有権限につき、被上告人稔は、さきに被上告人元四郎が上告人から設定を受けていた本件土地の賃借権を上告人の承諾を得て譲り受け、その賃借権に基づいて本件土地を占有し、また、被上告人五名のうちその余の者は、被上告人稔の家族または被同上告人の所有にかかる本件建物の借家人としてそれぞれ本件土地を占有するものである旨を主張したのに対し、原審が、被上告人稔と上告人との間に、昭和三五年七月七日、本件土地に関して原判決理由第一の二の(二)に摘示する(1)項ないし(5)項の約定を内容とする契約が成立した事実を認定したうえ、上告人は、被上告人稔に対し、本件土地を他に売却することが実現するに至るまで、または右契約(4)項の約旨に従つて被上告人稔が本件建物を収去するまでの間、これを同被上告人に賃貸する旨を約したものであるが、右不確定期限の到来したことは上告人においてなんら主張しないところであるから、右賃貸借関係はなお継続しているものとし、また、被上告人五名のうち同稔を除く者は、稔の承諾に基づいて本件建物に居住しているものとして、被上告人五名に対する請求を棄却したことは、その判文に照らして明らかである。
しかし、原審認定の契約には、一方において「上告人は本件土地が売却できるまで、あるいは被上告人稔が本件建物を収去するまで本件土地を同被上告人に対して一カ月七、二八〇円の賃料をもつて賃貸する」旨の約定(原判示(5)項)が存在するけれども、他方において「被上告人稔が本件建物を買い戻した後一年半を経過するもなお本件土地の売却ができないときは、右土地売却促進のため、同被上告人は任意本件建物を収去して本件土地を上告人に明渡す」旨の約定(原判示(4)項)も存在するのであつて、右契約の成立に至るまでの経緯、ことに上告人が本件土地を他に売却しようと企てながら右契約を締結した事情と契約条項全体の趣旨にかんがみれば、右契約の趣旨は、原判決のように、本件土地の売却が建物の買戻後一年半以内に実現しない場合においては、被上告人稔において本件建物を収去しないかぎり、その賃貸期限が到来しない趣旨に解すべきではなく、本件建物の売却がその買戻後一年半以内に実現すればその時まで、実現しなければ右買戻後一年半を経過するまでの間、本件土地を被上告人稔に賃貸することとし、売却が実現できないまま右一年半を経過したときは、被上告人稔は上告人に対して本件建物の収去義務を負担するとともに、右収去に至るまでその実質は損害金として賃料相当の一カ月金七、二八〇円の金員を支払うことを約したものと解するのが当事者の意思に合致するものというべきである。そして、原審は、前記のように、右賃貸借についてその期限が到来したことは、上告人において何ら主張しないところと判示するけれども、上告人は、被上告人五名の主張した前記被上告人稔による賃貸借承継の抗弁事実を否認しつつ、上告人と被上告人稔との間に原審認定の前示契約とほぼ同一内容の契約が成立したことを主張し、該契約に定めた期間も経過したため(被上告人稔が昭和三六年一二月二三日、被上告人やえから本件建物を買い受けて、同三七年一月二七日、その旨の所有権移転登記を経由したことは、原審の確定するところである。)、被上告人らに対し本訴を提起したものである旨主張していることは、原判文に照らして明らかであるから、もし原審認定の契約が全体として有効なものであるならば、上告人は、他に特段の事情のないかぎり、被上告人五名に対して本件土地の明渡を求めうるものといわなければならない。
そうであるとすると、原審は、その認定にかかる契約の趣旨についての解釈を誤つた結果、被上告人稔の上告人に対する賃借権を肯認し、たやすく上告人の請求を排斥した違法があることに帰するから、右の違法をいう論旨は理由があり、原判決中被上告人五名に対する請求を排斥した部分は、その余の論旨について判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。
つぎに、上告人の被上告人やえに対する本件土地の不法占有を理由とする損害賠償請求について、原審は、「本件共同訴訟人である被控訴人(被上告人)服部元四郎及び同服部稔は右期間中の賃料弁済を主張しているから、右主張は被控訴人(被上告人)田渕やえについてもその効力を及ぼすものと解するのを相当とする(いわゆる共同訴訟人間の補助参加関係)。」としたうえ、被上告人やえが本件土地を不法に占有したことによつて上告人が蒙つた損害は、被上告人稔、同元四郎において右不法占有期間中の本件土地の賃料を上告人に支払つたことにより補填された旨認定判断し、もつて上告人の被上告人やえに対する請求をも排斥したことが、その判文に照らして明らかである。
しかし、通常の共同訴訟においては共同訴訟人の一人のする訴訟行為は他の共同訴訟人のため効力を生じないのであつて、たとえ共同訴訟人間に共通の利害関係が存するときでも同様である。したがつて、共同訴訟人が相互に補助しようとするときは、補助参加の申出をすることを要するのである。もしなんらかかる申出をしないのにかかわらず、共同訴訟人とその相手方との間の関係から見て、その共同訴訟人の訴訟行為が、他の共同訴訟人のため当然に補助参加がされたと同一の効果を認めるものとするときは、果していかなる関係があるときこのような効果を認めるかに関して明確な基準を欠き、徒らに訴訟を混乱せしめることなきを保しえない。
されば、本件記録上、なんら被上告人元四郎、同稔から補助参加の申出がされた事実がないのにかかわらず、被上告人元四郎、同稔の主張をもつて被上告人やえのための補助参加人の主張としてその効力を認めた原判決の判断は失当であり、右の誤りは判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点に関し同旨をいう論旨は理由があり、原判決は右請求に関する部分についても破棄を免れない。
そして、上告人の被上告人五名に対する請求については、原審の認定にかかる前示契約の借地法上の性質、その効力、右被上告人らが抗弁として主張する本件土地賃借権と右契約との関係等につきなお審理を尽させる必要があり、また、被上告人やえに対する請求についても、その理由の有無に関してさらに審理をする必要があると認められるので、本件を原審に差し戻すべきものとする。
よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)