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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(行ツ)18号 判決 1967年6月22日

東京都武蔵野市関前五丁目一一番三号

上告人

山口光三

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被上告人

武蔵野税務署長

西山要三

右当事者間の東京高等裁判所昭和四一年(行コ)第三五号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四一年一一月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点及び第三点について。

論旨は、原判決には本件資産譲渡における権利移転の時期並びに無申告加算税納入告知書における納期限の記載を欠く瑕疵について判断を遺脱した違法があるという。

しかし、記録によれば、原判決は、本件無申告加算税賦課決定の取消を求める訴は審査の裁決を経ないで提起された不適法なものであるとしてこれを却下したのであり、右審査の裁決を経ていないことは、上告人の自ら認めて争わないところである。したがつて、原判決が所論の点について判断を加えることなく右訴を却下したのは、相当である。

されば、論旨は、理由なきに帰し、採用の限りでない。

第二点について。

論旨は、原判決には国税通則法八七条一項四号の適用を誤つた違法がある、という。

しかし、上告人は、原審において、審査の裁判を経ないで本件無申告加算税賦課決定取消の訴を提起したことにつき右法条所定の事由の存する旨の主張、立証をした事実のないこと、記録上明らかである。

されば、論旨は原判示に副わない事実に立脚してその違法をいうにすぎないものであつて、排斥を免かれない。

第四点について。

論旨は、原判決の違法をいうものでないから、上告適法の理由とは認められない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

(昭和四二年(行ツ)第一八号 上告人 山口光三)

上告人の上告理由

第一点 上告人が所有宅地を訴外柏木喜美子に対し昭和三十九年十一月二十六日売買契約を締結して解約手附金一五〇万円を受領した被上告人はこの時点が権利移転の時点であると主張するが、上告人は承服出来ない。原審がこのことにつき何等の判断を示して居らないのは審理を尽くしたものとは言い得ない。契約書(写)によつて判断しても右金員は民法第五五七条の手附金に該当し買主は手附金を放棄し、又売主は倍額を償還して解約出来るのであつて、その時点では権利が確定的に買主に移転した時には当らない。又所得税法第十条一項の“収入すべき金額”とはその収入すべき金額であつて且つ確定した場合の収入を謂うものと解する。現に右訴外人との取引も再三に亘つて延期を重ねたもので、果して真実購入の意志があるのか、又は意志ありとしても金繰り等の関係で実行出来るのかは全く不明で信を全副的に置き難いから、特に手附を上告人より申出でたもので、手附金を受領した後も手附金流れの疑念が大いに存した次第で決して権利移転の問題が起る余地すらなかつたのである。

世上行なわれている不動産取引の実際及び経験法則に照らしても、土地代金の一割程度の手附金の支払いで売買両者間に権利の移転があつたと断ずることは健全な常識では考えられないし両当事者もそのようには思つてもいなかつたのである。故に本件不動産の権利の移転時は昭和四十年一月十七日の残代金を収受した時点がこれに当り、従つて所得の申告は翌四十一年三月十五日までに行なえばよいのである。無申告並びに延滞の問題も起り得よう筈がないのである。

以上を要すれば昭和三十九年十一月二十六日に収受された一五〇万円の手附金が解約手附金であるか否かが焦点であることに帰一する。

原審はこの点の判断を遺脱したもので確信をもつて、原判決は破毀さるべきものと思料する。

第二点 上告人は原審訴状で東京国税局長に審査請求をしなかつたことにつきその理由を述べたがこれに対する原審の判断は焦点をずらせている。即ち無批判に、解約手附金を収受した時点が権利移転の時である、という風に受けとれる判旨だからである。上告人は現に全国劃一的に行なわれている当局の課税方針の是正を求めているもので、大蔵大臣又は国税庁長官に審査請求するであればともかく、一地方局長に審査を申立てても権限外の事項を希求するもので無意味と言わざるを得ないのである。まさに国税通則法第八十七条一項四号後段の……決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由あるとき……の除外理由に相当するのである。原審の判断は法の適用を誤つた違法がある。

第三点 被上告人が上告人に対して発給した所得税一一七万円の納入告知書には納期が明記されていないのであつて、口頭ですぐ納付するよう指示されただけである。納期とは告知書に明記(口頭の場合も含めて)さるべきものであつて、納税者がこの期限に遅滞した事実があつた時に初めて延滞の問題が起るのである。仮りに上告人に無申告の過失があつたとしても、納期を遅滞した事実はないのである。

尤も上告理由第一点に述べた解約手附金であるという上告人の主張が認容されれば、本項は無用の多弁となるものなのでこれ以上の主張は繰り返さないこととする。

第四点 原審は納付催告は賦課処分でないという。上告人はこのことについては争点でないので強いて争わないが、庶民大衆は法の不知は不許としても難解複雑な税法を悉く理解している道理がないので、実際問題としては督促される滞納の事実を知らしめると共に納期を示して告知するという行政措置をとることが条理であり、当然為すべき義務ですらある。違法でないとしても不当であることは指摘できる。行政機関は国家国民に奉仕するのが本来の使命であり義務でなければならない。徴税の便宜に籍口して本来の責務を懈怠することは許されない。

以上申述べた通り原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背があり而もその影響は重大であつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると思料されるので破棄自判あらんことを希うものである。

イ、第一審及び原審に提出した訴状および準備書面のすべてを援用する。

以上

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