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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)924号 判決 1969年5月22日

上告人

京都市

代理人

納富義光

右補助参加人

桂駅西口土地区画整理組合

代理人

中村益之助

被上告人

福井美代子

ほか二名

代理人

山村治郎吉

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人納富義光の上告理由および上告補助参加代理人中村益之助の上告理由の各第一点について。

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、所論の点について被上告人らの先代に過失がないとした原審の判断は、相当である。本件において、差戻し後の原審としては、あらたに事実の確定を必要とするような事実上の主張がなされない以上、すでに取り調べた証拠のみに基づいて所論の争点を審理判断しうることは当然であつて、所論の点について特段の説示をしなかつたとしても、原判決になんら所論の違法があるとはいえない。所論引用の判例はいずれも本件に適切でなく、これを引用する上告人の主張は、原審においてあらたな証拠の取り調べを必要ならしめるものとはいえない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について。

自作農創設特別措置法の規定に基づき、政府から売渡を受けて現に被上告人らの先代が耕作していた本件土地に対し、建設大臣が都市計画上公園と決定したとしても、原審の確定するところによれば、上告人京都市は右土地につき直ちに現実に外見上児童公園の形態を具備させたわけではなく(公用開始行為がないことは上告人も自認している)、したがつて、それは現に公共用財産としてその使命をはたしているものではなく、依然としてこれにつき被上告人らの先代の耕作占有状態が継続されてきたというのであるから、かかる事実関係のもとにおいては、被上告人らの先代の本件土地に対する取得時効の進行が妨げられるものとは認められない。それゆえ、これと同旨の見解に立つて本件土地に対する被上告人らの先代の取得時効を肯定した原審の判断は、正当として是認するに足りる。原判決に所論の違法はなく。論旨は採用することができない。

同第三点について。

取得時効の要件としての所有の意思の有無は、占有の根拠となつた客観的事実によつて決定さるべきところ、原審の確定するところによれば、被上告人らの先代は、自作農創設特別措置法に基づいて政府から本件土地の売渡を受けたもので、その無効であることを知らず、右売渡によつてその所有権を取得したものと信じて以後その占有を継続していたというのであるから、被上告人らの先代は右処分以来本件土地を所有の意思をもつて占有していたものということができ、これと同旨の原審の認定判断は、正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するに足りない。

同第四点について。

かりに、本件土地の売渡処分に所論のような瑕疵があり、それが無効であるとしても、そのことから直ちに被上告人らの先代による本件土地の占有につき所有の意思が否定されることにはならないから、所論の点について原審が直接判断を加えなかつたからといつて、原判決に所論の違法は認められない。それゆえ、論旨は採用に値いしない。

同第五点について。

原審の確定した事実関係のもとにおいては、被上告人らの先代の取得時効の主張が権利の濫用とは認められない旨の原審の判断は、首肯するに足りる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文、のとおり判決する。(大隅健一郎 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠)

上告代理人納富義光の上告理由

<前略>

第二点 原判決は「一般に行政法学上予定公物は公物に準ずべきものと考えられているけれども、そもそも当該予定公物が如何なる法律関係につき公物に準じ又は準ずべきでないかはそれぞれの実定法規や条理に照らし個個に検討されなければならない」と論じられるが、この点は抽象論としては正しい。然し本件土地は、桂西口土地区画整理組合が、設立当初より児童公園敷地として京都市に寄附することに組合規約上予定していたものであつて、その他の土地は広告まで出して売却処分しているにもかかわらず、本件土地のみは売却処分を行なわなかつたのである。そしてその他の土地については既に売却処分を完了してしまつていること、児童公園として立地条件等からして、本件土地がなくなれば他の土地というように、そう簡単に児童公園適地が見つかるものではなく、しかも本件土地区画整理設計当初より最適地として設計せられている筈であるから、この意味においても、児童公園最適地であるというべきであり、立地条件からも、経済的観点からも、本件土地に代わるべき土地は他に存在しないものと考えざるを得ないのである。本件土地がそのように代替性を有しないという点において、公物に準じ、時効取得の適用を排除すべき理由を見出し得るものと考える。果して然らば、原審の判示の如く、被上告人等の主張する時効起算点たる昭和二三年一二月二日当時は本件土地が未だ組合の保留地に過ぎず、公有財産ですらなかつたとしても、更に建設大臣の決定が時効完成の終期に近い昭和三一年六月一日になつてはじめてなされたとしても、上告人としては、本件土地が公有財産となり、建設大臣が本件土地を京都市都市計画公園に指定した日以後は、時効の完成は妨げられるものと考える。これと見解を異に決する原判は、法令の適用を誤つた違法があるといわざるを得ない。<後略>

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