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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(行ツ)10号 判決 1974年9月02日

旧東京都北多摩南部事務所長承継者

上告人

東京都府中都税務事務所長

小柳鹿蔵

右指定代理人

関哲夫

外一名

上告人

旧名狛江町長

狛江市長

吉岡金四郎

右訴訟代理人

若林信夫

外二名

被上告人

財団法人

電力中央研究所

右代表者

松永安左エ門

右訴訟代理人

鎌田英次

外二名

主文

原判決中上告人ら敗訴部分を破棄する。

右部分につき、本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

上告人市長代理人兼子一、同若林信夫、同坂上寿夫、同桑田勝利、同海野普吉の上告理由第一点及び上告人事務所長指定代理人島田信次、同哲夫、同岡本正の上告理由第一点ないし第四点について。

地方税法三四八条二項一二号所定の「民法第三十四条の法人で学術の研究を目的とするもの」における「学術の研究」とは、日本学術会議法一〇条に定める区分によつて示されるような意味における人文科学及び自然科学の学理的研究並びにその応用に関する研究をいい、右における「目的とするもの」とは、当該法人の定款又は寄附行為の目的条項に学術の研究を行う趣旨を掲げ、かつ、その組織、運営及び活動の実体からみて学術の研究という目的に副つていると認められるものを指し、また、右「学術の研究を目的とする」法人が学術に関する法人(民法三四条参照)として文部大臣の設立許可を受けたもののみに限定されるものとはいえない旨の原審の判断は、正当として是認することができる。そして、原審の確定する事実関係のもとにおいては、被上告人が民法三四条の法人に該当することは明らかであり、また、被上告人の寄附行為の目的条項に学術の研究を行う趣旨が示されていて、被上告人がその実体において学術の研究を目的とするものであると認められる旨の原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の挙示する証拠関係に照らして是認しえないものではなく(なお、原判決は、被上告人が「その実体において『学術の研究を目的とするもの』であることを妨げないものというべきである。」と判示しているが〔第一審判決五八丁表参照〕、右の「であることを妨げない」との判示は、「であると認められる」旨の積極的判断を示している趣旨であることはその判文上容易に看取しうるところである。)、したがつて、被上告人が地方税法三四八条二項一二号の「民法第三十四条の法人で学術の研究を目的とするもの」に該当するとした原審の判断は、肯認するに足りる。しかして、地方税法七三条の四第一項六号の「民法第三十四条の法人で学術の研究を目的とするもの」の意義も、同法三四八条二項一二号のそれと同義に解すべきことは明らかであるから、被上告人が同法七三条の四第一項六号のそれに該当するとした原審の判断も、肯認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解に立ち、又は、原審の認定に副わない事実を合わせ主張して原判決を論難するものであつて、すべて採用することができない。

前示兼子一らの上告理由第二点について。

納税義務の成立、内容は、もつぱら法律がこれを定めるものであつて、課税庁側と納税者側との間の合意又は納税者側の一方的行為によつて、これを動かすことはできないというべきである。したがつて、仮に、上告人狛江市長と被上告人との間の所論合意に所論のごとき約旨が含まれているとしても、そのことのゆえに、同上告人のした本件の固定資産税及び都市計画税の賦課処分が当然に適法となるものでないことは明らかであり、これと同旨の原審の判断は正当である。そうすると、右合意の趣旨に関する所論につき判断を加えるまでもなく、論旨は採用することができない。

前示兼子一らの上告理由第三点及び前示島田信次らの上告理由第五点について。

原審において、被上告人は本件の固定資産がすべて地方税法三四八条二項一二号及び同法七三条の四第一項六号所定の「その目的のため直接その研究の用に供する固定資産(不動産)」(以下直接研究用資産という。)に当たる旨の主張をしているとみうること明らかであり、右主張に対し、上告人らがこれを争う旨主張したこと、及び右争点につき原審が弁論の全趣旨により被上告人の主張を肯定する旨の判断をしたことは、所論指摘のとおりである。

ところが、原審において、被上告人が提出した所論成立に争いのない甲第四九号証には、本件の固定資産がすべて直接研究用資産に該当するとの被上告人の主張と矛盾するかのような事実の記載があり、また、上告人狛江市長が提出した成立に争いのない乙第三二号証にも、右被上告人の主張事実に疑いを生じさせるような記載があることを看取することができるから、原審が、これらの書証の存するにもかかわらず、本件固定資産のすべてが直接研究用資産に該当するとの被上告人主張を肯定する判断をするにあたつては、右書証との関連において首肯するに足りる判断の根拠を示すべき筋合である。しかるに、この点につき、原判決は、単に弁論の全趣旨により認める旨を説示する外、何ら首肯するに足りる説示をしていないのであつて、右の判決は理由不備の違法がある場合にあたるものというべきである。それゆえ、右論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。

よつて、右各書証の証明力等前記争点に関し、更に、審理を尽させるため本件を原審に差し戻すこととし、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岸上康夫 大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸盛一)

<上告理由省略>

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