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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(行ツ)87号 判決 1973年6月14日

福岡市上南町二二番地

上告人

株式会社末次鉄工所

右代表者代表取締役

岡部重幸

右訴訟代理人弁護士

灘岡秀親

福岡市東区大字馬出字千代松原一一三〇番地

被上告人

博多税務署長 茂田英男

右当事者間の福岡高等裁判所昭和四二年(行コ)第五号更正決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四三年五月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人および上告人の各上告理由について。

昭和四〇年法律第三六号による改正前の会社更生法二六九条第三項にいう「更生手続開始の時までの各事業年度の法人税額」とは、更生手続開始の時までに未納となつている各事業年度の法人税額を意味し、すでに納付済の法人税額を含まないとした原審の判断は、同条項の立法趣旨にかんがみ、正当として是認することができる。しかして、右の「法人税額」のうちには延滞加算税額を含むものと解されるのであるが、これは、各事業年度の未納法人税について更生手続開始の時までに発生した延滞加算税債務の額を、未納法人税額と同じく益金に算入しないこととしたものであつて、所論のいうように法人税が既納であることを前提としなければ理解しえないものではない。原判決(その引用する第一審判決を含む。)に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 大隅健一郎 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫)

(昭和四三年(行ツ)第八七号 上告人 株式会社末次鉄工所)

上告代理人灘岡秀親の上告代理

原判決には法律の解釈を誤つた違法がある。

旧会社更生法第二六九条第三項の「更生手続開始の時までの各事業年度の法人税額」とは

更生手続開始の時までに既に納付済の法人税額であると、未納の法人税額であるとを問わず、一切の法人税額を延滞加算税額と共に含むものであると解釈すべきものなるところ、

原判決は之を

更生手続開始の時における未納法人税額であると解釈しているが、上告人は原審の右解釈は誤つているものであると思料するものである。

(一) 思うに税は国民の財産権に重大なる関係を有するものであるから、税に関する事項は法律で定むべきことが憲法にて要請されており、従つて税に関する法律は凡て完結的で且明確なることが肝要である。

従つて又その解釈は法文の通り厳格であらねばならぬことは当然の帰結であつて、徒らに拡張し、或は縮少し、又は立証趣旨による補充等の解釈が許されないことは税法解釈の原則であり、刑事法において「疑はしきは罰せず」との罪刑法定主義の如く、税法の解釈においても「疑はしきは課税せず」との原理は動かすことは出来ないものである(中川一郎編税法学体系(1)総論参照)。

(二) 之を本件についてみるに、原判決は第一審判決の

「しかし法規に用いられる文言は、法規の意味内容を認識するための媒介としての役目を有するに過ぎないものであつて、必ずしもその文言だけにとらわれて解釈すべきものではない」

との部分を引用して、上告人の主張を排斥しているのであるが、この解釈は明らかに、税に関する法律は厳格に解せねばならないという原則に反し、徒らに拡張、補充して、否内容を変更して為された違法な解釈であると断言してもはばからないものである。

若し原審のように「各事業年度の法人税が未納の法人税に限定すべきものである」との解釈を採るならば、未納の法人税は何れは納付済になるものであるから、

更生手続開始の時までの各事業年度の法人税額

なる文言は

更生手続開始の時における法人税額

と書き替えねばその意味が通じなくなるものである。

謂うまでもなく、「時までの法人税額」とは過年度の法人税の累積額の意味であり、「時における法人税額」とは或る時点における法人税が意味するものであるから、原判決は「過年度の法人税額」を無視し、更生手続開始時における未納法人税と解したものであり、従つて税法の解釈というよりむしろ立法に等しきものであり、原判決の解釈は前記の如く明かに内容を変更したものであるから、到底納得することは出来ず原判決は当然破毀されねばならないものであると信ずる。

(三) 尚又原判決には、問題の法条中

更生手続開始の時までの各事業年度の法人税額(利子税額を除く)と更生手続開始の時における……法人税(利子税額及び延滞加算税額を除く)の引当金

なる文言中の、「延滞加算税額」につき何等の考慮も払わず之を無視して解釈した違法がある。

法人税の引当金の場合には延滞加算税額は之を除くと明記してあるに反し、各事業年度の法人税額の場合には、利子税額は除くとの明文があるが、延滞加算税額については之を除くとは明記していない。即ち、各事業年度の法人税額の場合には延滞加算税額は当然之を含むから除くと明記してないのであつて、若し原判決の如く解するならば、各事業年度の法人税額から利子税額のみを除き、延滞加算税額につき、特に明記しなかつた理由は全然見出すことは出来ないわけである。

上告人は各事業年度の法人税額から之を除くと特に明記せなかつたのは之を含ましめるためであり、それは法人税額は未納のみならず既納のものも共に含む(延滞加算税額は納付して始めて顕在する)との前提に立つて規定されたものであるからと信ずるものである。

(四) 上告人は上告人との見解を同じうする並木俊守の鑑定書を原審に証拠として提出したが原審は之に対し

傾聴に値するものがあるが……却つて控訴人の主張するところは、更生手続開始前にすでに決済され、右手続と直接関係のない会社設立以来の既納法人税額を、益金不等入の基準にしようとするもので、他の法人に比し更生会社を不当に優遇するものといわねばならない。控訴人の主張には賛同できない。

と判示した。

この判示も前述の如く、原審は問題の法条の所謂「法人税額」とは「未納の法人税」であるとの前提に立つて批判したものであり、その前提となつた解釈が誤りであることは前詳述の通りである。

原審の解釈は前詳述の如く、税に関する法律解釈の原則に反し、敢て立法者的立場に立つて問題点の解決に当ろうとしたものであるから、明らかに法令に違反したものであり、憲法に違反していると論じても敢て過言ではないと信ずものである。

(五) 備考

原判決につき、若し之に反対し、上告人の論旨に賛同するが如き論文が発表された場合には、上告人はその論文を参考資料として速かに提出する予定である。

以上

上告人の上告理由

原判決には法律の解釈を誤つた違法がある。

依つて上告状を提出し別に上告理由書を提出したが、更に上告人自身の法解釈の受取り方を述べ併せて上告人が求めている真意が何であるかを理解していただきたいので敢て重複を省みず、本書を提出するものである。

一、昭和二七年六月七日法律一七二号会社更生法第二六九条三項は更生会社の手続による会社の財産の評価換及び債務の消滅による益金で後記四つの要素を基にして計算された金額に達する迄の金額は当該財産の評価換え又は債務の消滅のあつた各事業年度の同法による所得の計算上、益金に算入しないことを定めたものである。

これを別な表現方法で示せば、この条項で規定された限度を超過する部分は課税されるということである。

二、右に述べた四つの要素とは

(1) 更生手続開始の時迄の各事業年度の法人税額(利子税額を除く)

(2) 更生手続開始前から繰越された損金(法人税法第九条五項(青色申告を提出した場合の繰越損金えの算入)の規定の適用を受ける損金を除く)

(3) 更生手続開始の時における法人税法第一六条一項(積立金)に定める積立金額

(4) (更生手続開始の時における)法人税(利子税額及び延滞加算税額を除く)の引当金

三、以上四つの要素による計算式は次の通りである。

(財産の評価換益+債務の消滅による益金)-〔{(1)+(2)}-{(3)+(4)}〕=課税の対象となる益金の額

ここで重要なことはこの〔〕の中が直ちに課税免除額であるかの如き錯覚を起すであろうが、これは「免除額」ではなくて「免除の限度額」なのである。このことは条文中の「額に達する迄の金額は」という文字がこれを明示している。

従つて「免除の限度額」が如何に多額になろうとも、要は「債務消滅等の益金の額」の大小が最終的に「課税の対象となる益金の額」を決定するのであつて、「債務消滅等の益金」が「免除の限度額」より大きければその大きい部分は「課税の対象となる益金」となるのであり「債務消滅等の益金」が「免除の限度額」より小さければ「課税の対象となる益金の額」はないことになるのである。

従つて、被上告人が第一審の第一回準備書面において

「原告主張のように解すると、たとえば設立以来長年月を経過した会社が更生手続に入つた場合、本項による計算の基礎となる法人税額は著しくぼう大となり会社更生の目的を超えて不当に更生会社を利することになり適当でない」

と述べたことは大きな誤りを犯しているのである。この錯覚による観念が爾後の被上告人の無理な陳述理由づけの底流となり、一方において更生会社の救済の必要を認めながら、他方においてその救済の額の大小を以て公平不公平をいわしめるに至つているのである。

法に定められた基準に忠実に従つた結果であるならば敢てその額の大小を論ずる必要はない筈である。

上告人は決して結果の額の大小を云々するものではなく、会社更生に定められた条文はその条文なりに法の解釈の原則に従つて解釈されるべきことを求めているのである。

上告人の主張と被上告人の主張の何れが正しいかの判定に便するために、以下この条文の比較分析を行つたものを追つて提出することを御承認願いたい。

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