大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和45年(行ツ)68号 判決 1972年3月13日

熊本県宇土市本町一丁六番地

上告人

中田唯男

右訴訟代理人弁護士

山中大吉

同県同市新小路町

被上告人

宇土税務署長渡部克巳

右当事者間の福岡高等裁判所昭和四四年(行コ)第五号更正決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四五年三月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山中大吉の上告理由第一点について

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ)の認定するところによれば、昭和三七年一二月二四日、上告人による代物弁済予約完結権の行使または上告人と訴外小渕満子・同宣雄両名との間における代物弁済本契約の成立により、本件土地建物の所有権は上告人に移転することとなつたが、その際、本件土地建物の時価と同訴外人らが上告人に対して負担する債務額との差額を清算する趣旨で、上告人から「追加金として五〇万円を支払つた」ものと解されるのであつて、その説示は、一面、被上告人主張の代金五〇万円による売買を否定するとともに、反面、上告人主張のような単なる「涙金」、すなわち所論にいわゆる好意的な贈与金たることをも否定したものであることを窺うにかたくない(右五〇万円を「涙金」であるとする上告人の主張は、本件土地建物の取得価額が八〇万円であるとするその主張と矛盾するものである)。原判決に所論の違法はなく、趣旨はとうてい採用することができない。

同第二点について

所論第一審判決事実摘示における被上告人の答弁を通覧すれば、被上告人が、上告人による本件土地建物の取得の時期を昭和三七年一二月二七日であると主張し、これを同三六年三月二九日であるとする上告人の反対主張を否定したものであることが明らかである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用のかぎりでない。

同第三点について

原判決は上告人による本件土地建物の取得の日を昭和三七年一二月二四日と認めたものであつて(かかる認定に所論当事者訴訟主義違反の認められないことは、第二点につき説示したとおりである)、その認定判断は所論登記の日のいかんとはかかわりがない。論旨は、原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用するに足りない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 岩田誠 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)

事実

(昭和四五年(行ツ)第六八号 上告人 中田唯男)

上告代理人山中大吉の上告理由

第一点 上告人は終始昭和三六年三月二九日、上告人が訴外小渕満子に交付した金五〇万円は、同情的な涙金であると主張した。

而してその同情的涙金は、上告人の先代秀喜と、訴外小渕満子の先代山川勢喜との代物弁済契約予約時代の不動産の価値と、代物弁済確定時の価値とに相違があることから、上告人と訴外小渕満子は、その先代時代から引続き兄妹のような親しさで交際して来たので、同情して涙金として贈与したもので、決して売買代金ではなく、即ち好意的な贈与金であつたと主張した。

原審はその五〇万円が贈与金であるか、売買代金であるかにつき判断すべきであるが、その理由において莫然と「追加金として五〇万円を支払つたうえ……」と判示し、贈与金であることを否定したのか、売買代金としての追加金と認定したのか不明でありそのいずれにしても理由を明示すべきであるのにそれをしない原判決は理由不備の不法がある。

第二点 上告人が本件不動産の所有権を取得したのは、昭和三六年三月二九日であると主張し(一審判決第二項(四))被上告人は一審判決請求原因に対する認否第二項において(四)の事実は認めると、明らかに上告人の主張の昭和三六年三月二九日上告人が本件不動産を取得したことを認めている。さすれば上告人が本件不動産を、昭和四〇年三月三〇日訴外瀬野哲郎に、金三〇〇万円で売渡した時はすでに三ヶ年を経過し、当然所得税法第二二条二項二号に該当すべきものであること明らかであるに拘わず、原審は、昭和三七年一二月二四日ごろ本件土地建物が代物弁済の予約契約の目的物と指定されたと判定したが、当事者に争いのない日時を、何等の理由なくそれと異る日時とし、従つて法の適用に差異を生じ、正反対の、結果を生ぜしめたことは事実の誤認と、その誤認を基準として法適用を誤つた不法がある。

第三点 事実上、上告人が本件不動産を取得したのは昭和三六年三月二九日であるが、その所有権移転登記は、昭和三七年一二月二七日である、若し原審が登記の日をもつて第三者に対抗できる所有権取得の日であるとし、本件の場合も被上告人は第三者としてその登記を基準にすべきであるとの見解に基く判定とすれば、それは法の解釈を誤つた誤判である、課税は実質課税が原則であり(旧税法第七条の三参照)その原則によれば、課税当局と所有権取得者との間の関係は、実質的に取得した時をもつて論ずべきであり、取引当事者間においては登記という対抗要件が論ぜらるべきであるが、本件のような課税の時の標準は実際上の取引の日時を基準とすべきである。

上告人は原審において昭和四四年五月一〇日付準備書面第三項をもつて、このことを主張したが原審はこれに対し、何等の判断をなさず、しかも前項陳述のように当事者の意に反して、上告人の本件所有権取得の日時を昭和三七年一二月二四日としたことは、当事者訴訟主張に反し、かつ、理由不備審理未尽の不法がある。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例