大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)242号 判決 1974年6月27日

上告人

伊藤孫一

外一名

右両名訴訟代理人

大橋茂美

外一名

破産者鶇野文春 破産管財人

被上告人

加藤博隆

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人大橋茂美、同村橋泰志の上告理由第一について。

破産者の行為が否認されると、その行為は直ちに効力を失い、右行為により逸出した破産者の財産は物権的に破産財団に復帰し、破産管財人は行為の相手方に対して右財産の破産財団への原状回復を請求することができることとなるが、否認の右のような効力は、破産財団との関係において、かつ、破産状態の存続する限りにおいて生ずるにとどまり、破産が取消、廃止、終結となつたときにはその効力も当然消滅するのである。そして破産法は、否認により登記を原状に回復する場合について、一般の抹消登記とは別に否認の登記という制度を設けてこれによるべきこととし(破産法一二三条一項)、また破産が取消、廃止、終結となつた場合には職権によつて右否認の登記を抹消すべきことを定めている(同法一二三条二項、一二一条、一二〇条)ところ、破産法が特に右のような否認の登記及びその職権による抹消という特別の制度を定めているのは、前述のような否認の効力にかんがみ、否認の場合に一般の抹消登記によつたり、また否認の効力が消滅した場合に抹消登記の回復登記によつたりすることは、いずれも相当でないとするからにほかならない。右の法の趣旨に鑑みると、破産者がその財産の所有権を他に移転しその登記を経た後に、破産者の右行為が否認された場合において、登記の原状を回復するためには、破産管財人は、右行為の相手方に対して右登記の否認の登記手続を請求すべきものといわなければならない。

ところで、被上告人は、本訴において、本件不動産に関する破産者鶇野光春から上告人伊藤孫一への、同孫一から上告人鶇野さなへへの各所有権譲渡行為を否認し、これを原因とする各登記の抹消登記手続を請求しているが、本件記録によると、右請求には否認の登記手続の請求が含まれていると解することができるのであつて、原判決が上告人らに対して否認の登記手続を命じたことは適法というべきである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(下田武三 大隅健一郎 藤林益三 岸盛一 岸上康夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例