最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)954号 判決 1973年10月04日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人金子新一、同金子光一の上告理由について。
根抵当権については、その極度額の定めが債権元本の限度を意味することが登記上明白である場合を除き、一般には民法三七四条の適用がないと解すべきであり(大審院昭和一三年(オ)第一二八六号同年一一月一日判決・民集一七巻二一六五頁、最高裁昭和四二年(オ)第六六二号同四三年一一月一五日第二小法廷判決・裁判集民事九三号二五五頁参照)、したがつて、根抵当権者は、右元本極度額としての登記がある場合以外は、利息または損害金と元本とを合算した総額が極度額を越えない限り、その被担保債権額の全部について優先弁済をうけることができるけれども、極度額を越える部分については優先弁済権を主張することができないものであるとともに根抵当権についての極度額の定めは、単に後順位担保権者など第三者に対する右優先弁済権の制約たるにとどまらず、さらに進んで、根抵当権者が根抵当権の目的物件について有する換価権能の限度としての意味を有するものであつて、その結果、根抵当権者は、後順位担保権者など配当をうけることのできる第三者がなく、競売代金に余剰が生じた場合でも、極度額を越える部分について、当該競売手続においてはその交付をうけることができないものと解するのが相当である。
これを本件についてみるのに、本件不動産については、上告人のため昭和三八年一一月八日および昭和三九年二月七日付をもつて各登記を経由した債権極度額をそれぞれ一〇〇万円とする根抵当権が設定され、さらに、上告人が競売の申立をし、その記入登記がなされたのちに、被上告人のために債権極度額を三五〇万円とする根抵当権が設定されていたこと、競売裁判所である大阪地方裁判所は、本件不動産の競売代金二八九万円について、上告人に対する配当額を二〇〇万円、被上告人に対する配当額を八四万一六三一円とする代金交付表を作成したことは、原判決が適法に確定するところであり、右事実関係のもとにおいて、上告人は、すでに配当をうけている二〇〇万円を越えて、本件不動産の競売代金の交付をうけることができず、たとえ被上告人に対する配当額が変更されても、上告人がこの金額の中から配当をうけ得る余地がないことは、叙上の説示によつて明らかである。
してみれば、上告人には右配当について異議を申立てる利益はないことになり(最高裁判昭和三二年(オ)第六七四号所同三五年七月二七日第一小法廷判決・民集一四巻一〇号一八九四頁参照)、これと同旨の原判決の判断は正当であつて、右判断の過程に所論の違法はない。したがつて、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)
裁判官大隅健一郎は海外出張中につき署名押印することができない。
(裁判長裁判官 藤林益三)