最高裁判所第一小法廷 昭和47年(行ツ)104号 判決 1973年4月19日
大阪府吹田市出口町一四番地の三二
上告人
細田麗子
右訴訟代理人弁護士
鈴木康隆
小林保夫
稲田堅太郎
大阪府茨木市上中条一丁目九番二一号
被上告人
茨木税務署長 田村英雄
右当事者間の大阪高等裁判所昭和四五年行コ第二一号所得税及び加算税賦課決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四七年八月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人鈴木康隆の上告理由について
原判決(訂正・追加のうえその引用する第一審判決を含む)挙示の証拠によれば、所論の点に関する原審の認定判断は相当であつて、その過程に所論の違法は認められない。論旨は採用できない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 大隈健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)
(昭和四七年(行ツ)第一〇四号 上告人 細田麗子)
上告代理人鈴木康隆の上告理由
原判決および第一審判決は、経験則にてらして明らかに違法な事実を認定し、その上に立つて、上告人の請求を退けているものであつて破棄を免れない。
一、原判決は、本件土地、建物の売買代金一、一〇〇万円を訴外樋野を通じて、あるいは直接上告人に対して支払いがなされていた旨認定している。
すでに原審において述べたように、上告人および夫である訴外細田七太郎は本件物件の売買等については全く知識、経験がなく、そのため不動産仲介業者である訴外樋野誠次に一任していたものである。そして上告人らは訴外樋野に対して印鑑等をすべて預けておいたものである。訴外樋野はこのことを奇貨として、本件物件を実際には一、一〇〇万円で売却したものであるにもかかわらず、上告人に対しては六六〇万円にて売却したものと、のみ伝えていたのである。
原判決は、訴外樋野が岡本房次郎の住所を上告人あるいは七太郎より教えられもしないのに知つているはずはない、というのであるが、樋野は上告人および七太郎との交際は長いものであり、その間において上告人の子を岡本の養子に迎える話も十分知ることはありえたし、又そのことから岡本の住所を知ることもそれ程不自然ではないのである。
前述したように、上告人および夫七太郎は、本件土地建物の売却について、そのすべてを前記樋野に委任していたところからして、訴外樋野からは本件物件の売却代金は六六〇万円である旨聞かされていたのであり、その余の金額については全く知らされていなかつたのである。従つて、上告人らにとつて、本件契約書が訴外樋野によつて乙第一三号証(土地)、第一四号証(建物)、乙第四号証乃至第六号証(退職金)というように三通作成されていることも、本件訴訟を提起してはじめて判明したことである。それぞれの名下の印影は上告人のものであるが、それは同人が印鑑等を右訴外人に預けておいたところからして、これを同訴外人が自由に使用したのである。その中、乙第一三号証、第一四号証については上告人および訴外七太郎はその内容を承認していたのであるから問題はない。ところが、乙第四号証乃至第六号証の書類については、上告人らに訴外樋野より全く知らされていなかつたものである。(因みに、乙第一三号証、第一四号証、第四乃至第五号証のすべては訴外樋野の筆跡である)。なる程、原判決のいうように職人一人あたり一一〇万円もの金員を退職金として交付するということは奇異な感じを与えることは事実であろう。そして真実は与えられていないかもしれないそうしたこてについては実は、上告人および夫七太郎は全く知らされていなかつたのである。ただ、やめる人の解決は樋野の方でするから、という話のみを聞いていたのである。
それでは一体金四四〇万円についてはどうなつているか。それは訴外樋野がこれを着服し、これを自ら費消してしまつたものとしか考えられない。
それは、右訴外人は本件物件を売却する代りとして隣接地で理髪をするための土地建物を買受けてやるとして、その費用と称して、本件物件の売却代金より五〇万円以上の金員を要求し、上告人らよりその交付をうけているのであり、この点からも右に述べたことは明らかである。
二、以上の事実にもかかわらず、原判決は右に述べたことについて首尾一貫している訴外細田七太郎の証言を斥けて、これと反する事実認定をしているのであつて、右は明らかな経験法則違反の違法が存在するものであつて、取消を免がれない。
以上