最高裁判所第一小法廷 昭和48年(オ)606号 判決 1974年2月21日
主文
理由
上告代理人松岡滋夫の上告理由一、(1)および二について。
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠とその説示に照らして、首肯することができ、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、採用することができない。
同一、(2)について。
第三者が賃借土地の上に存する建物を取得した場合において、賃貸人が賃借権の譲渡を承諾しない間に、賃貸借が賃料不払のため解除されたときは、借地法一〇条に基づく第三者の建物買取請求権はこれによつて消滅するものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和三二年(オ)第二六〇号同三三年四月八日第三小法廷判決・民集一二巻五号六八九頁)。
これを本件についてみるに、原判決の判示するところによれば、所論の従前地の賃貸人であつた訴外上田常明は、当時の賃借人神田捨一に対し、判示特約条項に基づき、賃料不払等を理由として昭和三六年一一月二七日賃貸借契約解除の通知をし、その通知は翌二八日同人に到達したところ、上告人は右土地の上に建てられていた本件建物を右の解除前である昭和三五年二月九日競落したが、この競落の際その敷地に対する土地賃借権の譲渡について前記上田常明の承諾を得たことは認められないというのであり、また、上告人の主張によれば、上告人は、昭和三七年五月一七日の第一審口頭弁論期日において、右建物買取請求の意思表示をしたというのであるから、上告人が右土地賃借権の譲受について賃貸人の承諾を得ない間に、その賃借権は前記解除の通知により昭和三六年一一月二八日消滅し、これとともに右建物買取請求権も消滅するに至つたものといわなければならない。これと同趣旨の原審の所論判断は相当である。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
同三について。
原判決は、第一審判決理由を引用し、所論承諾のあつた事実が認められない旨を判示していることが明らかであるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解せずして、原審の専権に属する証拠の採否判断を非難するにすぎず、採用することができない。
(裁判長裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)