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最高裁判所第一小法廷 昭和52年(オ)1135号 判決 1978年5月25日

主文

理由

上告代理人松元基の上告理由第一について

動産の売主が買主から動産売買の先取特権の目的物である右動産を売買代金債権の代物弁済として譲り受けても、その弁済額の範囲内においては、右代物弁済は他の債権者を害するものではなく、したがつて、破産法七二条一号所定の否認の対象とはならないものと解するのが相当である(最高裁昭和三八年(オ)第九九三号同四一年四月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻四号六一一頁、同三五年(オ)第八八三号同三九年六月二六日第二小法廷判決・民集一八巻五号八八七頁参照)。

本件において、原審の確定したところによれば、(1)訴外アサヒ商事株式会社(以下「破産会社」という。)は、昭和四四年七月二〇日支払を停止し、次いで支払不能の状態にあるとして、昭和四五年二月七日東京地方裁判所により破産宣告を受け、破産管材人に被上告人が選任された、(2)破産会社は、昭和四三年末ころ上告会社から東洋紡製のアクリル五〇パーセントのエクスラン毛布六〇〇〇枚ないし七〇〇〇枚を買い受け、右代金の支払のために満期が向こう三年間にわたる約束手形三六通を振り出したが、そのうち昭和四三年一二月から昭和四四年六月までに満期が到来する七通についての支払だけをし、同年七月以降に満期が到来する残りの二九通については支払をしていない、(3)破産会社は、倒産が必至の状態となつた昭和四四年七月上旬、上告会社に対する約一六〇〇万円の債務の代物弁済として、先に上告会社から買い受けたアクリル五〇パーセントのエクスラン毛布のうち四四〇〇枚(単価一四五〇円、時価合計六三八万円、以下「本件毛布」という。)を譲渡した、というのであつて、上告会社が代物弁済を受けた破産会社の約一六〇〇万円の債務のうちには破産会社が上告会社から買い受けた毛布の残代金債務が含まれていることは右事実関係から容易に窺えるところ、本件代物弁済は、右残代金残務額すなわちその弁済額の範囲内においては、他の債権者を害することにならず、したがつて、否認の対象とならないことは、前記説示したところに照らして明らかである。

ところが、原審は、右残代金債務額を確定することなく、本件代物弁済が被上告人によつて否認されるべき破産法七二条一号所定の行為にあたるとしているのであつて、原判決には、この点において同条同号の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならず、右違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがつて、原判決は破棄を免れず、本件は、更に右の点について審理を尽くす必要があるので、これを原審に差し戻すのが相当である。

(裁判長裁判官 藤崎萬里 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光 裁判官 本山 亨)

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