最高裁判所第一小法廷 昭和52年(オ)297号 判決 1978年4月24日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人吉井文夫の上告理由第一点及び第二点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができないものではなく、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
同第三点について
商品市場における売買取引の委託について、委託者が商品取引員に対し委託証拠金に充用する有価証券(以下「充用証券」という。)を預託する行為の法律上の性質は、根質権の設定であつて、消費寄託ではないから(昭和四三年(あ)第二五四六号同四五年三月二七日第二小法廷決定・刑集二四巻三号七六頁参照)、商品取引員は、右根質権によつて担保されるべき委託者の債務が存在しないときは、預託を受けた充用証券を委託者に返還すべきものであるが、本件におけるように、充用証券が、上場証券であつて、高度の流通性と代替性を有するものである場合には、委託者が預託充用証券そのものの返還について特別の利益を有する等特段の事情のない限り、充用証券預託契約を締結した当事者の意思の合理的解釈として、預託の対象である特定の充用証券の返還が不能となつたときには、同銘柄、同数量の他の有価証券をもつて返還すれば足りる旨の合意が黙示的にされているものと解するのが相当である。それゆえ、結論においてこれと同趣旨と解される原審の判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山 亨)