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最高裁判所第一小法廷 昭和52年(オ)587号 判決 1977年12月08日

上告人

関口哲

上告人

土井正

上告人

釘本光治

上告人

武田重幸

上告人

相馬博美

右五名訴訟代理人弁護士

橋本昭夫

被上告人

全相銀連北洋相互銀行従業員組合

右代表者

石野英美

右訴訟代理人弁護士

彦坂敏尚

佐藤義雄

右当事者間の札幌高等裁判所昭和五一年(ネ)第七二号臨時組合費請求事件について、同裁判所が昭和五二年三月七日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人橋本昭夫の上告理由について

原審の確定するところによれば、被上告人組合は、多数の組合員がこれから脱退して原判示の訴外組合を結成したにもかかわらず、なお労働組合としての組織的同一性を失うことなく存続し活動しているというのであって、このような場合には、従前から被上告人組合の所有していた財産につき、所論のいわゆる分裂なる特別の法理を導入して訴外組合との分割を認める余地はないものというべきである(当裁判所昭和四四年(オ)第一五五号同四九年九月三〇日第一小法廷判決・民集二八巻六号一三八二頁、昭和四四年(オ)第四三八号同四九年九月三〇日第一小法廷判決・裁判集民事一一二号八一九頁参照)。これと同趣旨の原審の判断は正当であって、その過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山亨)

上告代理人橋本昭夫の上告理由

第一点 組合の法律上の分裂についての主張

一、原判決はこの点に関し法令の適用を誤り、かつ審理不尽である。

二、即ち、上告人は同人らの多数の被上告人組合からの離脱と訴外組合の結成は単に事実上の分裂にとどまらず、法律上の分裂に該当すると主張し、一、二審において分裂前の上告人組合の民主々義的原理が機能していなかったことを事実を挙示し主張してきたものである。

三、組合の分裂については明文の規定を欠くものである。

しかし、労働組合が多数の人間の集団である以上離合集散は避け得ないものであるところから当然の帰結として合同(合併)或いは分裂という組織現象が惹起している。

そこに解釈論として法律上の組合の分裂が認められるのである。

組合の分裂は法律上の分裂と事実上の分裂とに類別される。

事実上の分裂は単なる旧組合からの退脱と退脱者による他組合の結成という次元で捉えられ、法律上の分裂は旧組合大会における承認を受けた場合と一応分類できる。

ところで、法律上の分裂について旧組合大会に於ける討議承認を絶対的必要条件と解することは誤りである。

即ち、組織に於ける討議承認は同組織が民主々義の原則にのっとって運営されてはじめて意味をもってくるものであって、上告人が主張している被上告人組合の分裂前の現状(第一審判決摘示事実被告らの主張一記載のとおり)のごとく民主々義的な組合機能が喪失した状況下で組合の分裂について組織討議を期待することは不可能を強いるものであり、かかる場合に組織決定を必要条件とすることは法律上の組合の分裂概念を認めないことに等しい。

従って、組織決定がない本件の場合外型上は事実上の分裂ではあるが、その分裂に至る経緯を審理し旧組合が民主的に機能していたか否かを判断しそのうえで事実上の分裂か法律上の分裂かを決すべきものである。

四、しかるに原審は上告人の法律上の分裂と評価すべき上告人の主張に関して単に「分裂前の組合と被上告人組合の同一性を維持したままの存続(上告人の主張によってもこれ等の組合は同一性を有していることは勿論である)」と「組織決定の不存在」のみを理由として上告人の申請した分裂原因を立証しようとする証拠の申出を却下して、本件分裂を事実上の分裂と断定した(少なくとも第一審においては組合機能の喪失の場合の集団的脱退・新組合の結成にして、組織決定が存しない場合でも法律上の分裂に当ると理由中で判断しているのにこの点に関して一顧だにすることなく断定した)。

五、右は明らかに法令の解釈を誤ったものであり、かつ審理を尽くさなかったものである。

よって、原判決の破棄と相当な裁判を求める次第である。 以上

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