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最高裁判所第一小法廷 昭和52年(オ)591号 判決 1978年3月23日

主文

原判決中、上告人入江保、同入江真治、同石橋笑子に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所へ差し戻す。

理由

上告代理人一木正光の上告理由について

本件記録によれば、所論山内教詮の証人尋問申出は原審においてなされなかつたことが明らかであるから、同人が証人として取り調べられなかつた点に関する所論は、その前提を欠き失当である。しかしながら、記録によれば、所論の上告人入江保本人尋問の申出は、本件土地につき被上告人丸三商工株式会社が完全な所有権でなく共有持分を有するにすぎないとの上告人入江保らの主張に関する唯一の証拠方法の申出であるから、特段の事情のないかぎりこれを取り調べることを要するところ、原審はこれに対する採否を明示することなく弁論を終結したことが明らかである。そうして本件において右特段の事情があつたことは記録上窺われない。もつとも、原審の第八回口頭弁論調書の記載によれば、原審の口頭弁論終結にあたつて当事者双方が「他に主張立証はない。」と述べたことが認められるが、このことを以て前記唯一の証拠方法を取り調べることを要しない特段の事情とすることはできない。

そうすると、原判決には証拠の採否に関する法の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決中、被上告人丸三商工株式会社の上告人入江保、同入江真治、同石橋笑子に対する請求を認容した部分は破棄を免れず、更に右の点について審理を尽くさせるため、右部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 岸 盛一 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山 亨)

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