最高裁判所第一小法廷 昭和53年(あ)1113号 決定 1979年3月22日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人福田耕治、同森本脩連名の上告趣意は、憲法三一条違反をいう点を含めて、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であり、被告人本人の上告趣意は、憲法二二条、二七条、二九条違反をいうが、所論は原審において主張、判断を経ていない事項について違憲をいうものであつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
なお、薬事法一二条が製造業の許可を受けないで業として製造することを禁じている医療用具で同法二条四項、同法施行令一条別表第一の三二に定めている「医療用吸引器」は、陰圧を発生持続させ、その吸引力により人(若しくは動物)の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること又は人(若しくは動物)の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことを目的とする器具器械であれば足り、必ずしも電動力等の強力な動力装置を備えているもの又は専ら手術に用いられるものに限定されず、また、人の健康に害を及ぼす虞が具体的に認められるものであることを要しないもの(昭和三八年(あ)第三一七九号同四〇年七月一四日大法廷判決・刑集一九巻五号五五四頁参照)と解すべきである。
ところで、原判決の認定するところに照らせば、本件吸圧器は、プラスチツク製吸角を体表に密着させ手動ポンプの力によつて右吸角内の気圧を五〇水銀柱センチメートル以上減圧し、かつ、数分間持続することができるもので、この吸引力によつて非観血法のみならず観血法による疾病の治療に使用し、又は人体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことを目的とする器具であることが認められるから、同法二条四項、同法施行令一条別表第一の三二に定める「医療用吸引器」にあたり、被告人が、右器具を厚生大臣の許可を受けることなく業として製造した点は同法一二条一項に違反し、これを販売した点は同法六四条、五五条二項に違反するといわなければならない。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(中村治朗 団藤重光 藤崎萬里 本山亨 戸田弘)
弁護人福田耕治、同森本脩の上告趣意<省略>
被告人の上告趣意<省略>