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最高裁判所第一小法廷 昭和54年(オ)194号 判決 1980年5月08日

上告人

向井一

右訴訟代理人

宮井康雄

被上告人

日本国有鉄道

右代表者総裁

高木文雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宮井康雄の上告理由第一点について

一件記録によれば、被上告人は、所論の各抗弁を選択的に主張しているものであることが明らかであるから、右抗弁のうちの一を容れて上告人の被上告人に対する請求を棄却すべきものとした原審が所論の他の抗弁につき審理判断しなかつたとしても、これをもつて違法であるということはできない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、所論の各規則が上告人と被上告人との間において締結される運送契約についてのいわゆる普通取引約款にあたるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第四点について

所論は、原審において主張せず、その判断を経ていない事項に基づき原判決を論難するものであつて、失当である。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(本山亨 団藤重光 藤崎萬里 中村治朗)

上告代理人宮井康雄の上告理由

原判決は、左記の如き法令違反、法令解釈の誤りを犯しているものであつて、宜しく是正さるべきである。

第一点(訴訟法違反)<省略>

第二点(法令解釈の誤り=約款論)

原判決の引用する第一審判決は、連絡運輸規則及び旅客営業規則は、運送約款たる効力をもつとする。

然しながら、被上告人が内部的に、一方的な形で制定する規則が、約款たる性質、効力を有するためには、「公示(認識可能状態)」されなければならない(西原寛一「商行為法」四五頁)。本件各規則が、如何なる形態で公示され、一般公衆が任意に認識し得る状態に置かれていたか否か、という点については、第一審判決も、これを引用する原判決も、何等、判示していない。ただ慢然と、右規則は運送約款であると断定するのみである。

如何なる法律的根拠から、約款であると結論づけたのか、法理のプロセスが不分明である。上告人は、一審以来、規則の約款性を争つているのであつて、この点、原判決は、規則を約款であるとする判断を下すことによつて、法的判断を誤り、且つ、理由を附さない違法をも犯すものである。

第三点(法令解釈の誤り=規則の適用範囲論)

一審判決を引用する原判決は、「列車等の運行休止の原因如何を問わず」、旅客営業規則が適用されるものと判断している。

しかしながら、約款の解釈(規則が約款であるとして)は目的論的解釈でなければならず、免責約款の如きは、みだりにこれを類推・拡張して解釈することは避けるべきである(西原・前掲書五四頁)。

しかるところ、被上告人の制定せる旅客営業規則を仔細に観察するならば、列車等の運行不能に関しては、「事故発生」(規則二八二条一項)とか「運行不能のため不通となつた区間」(同二八七条)とかという表現がとられ、又、これとは別に、「運行休止」という表現もなされている(同二八八条一項)。従つて、規則を立体的、綜合的に解釈するならば、「運行不能」とは、ある特定の列車等、又は、ある特定の区間について物理的障害があり、そのため当該列車等又は当該区間を列車等の運行をすることが、物理的、客観的に不能であつて、その状態がある程度継続する事実的、客観的状態を指称するものと解すべきである。そして又、「運行休止」とは、そのような事実的、客観的状態としての運行不能を前提として、国鉄当局が、主体的、積極的に、当該列車又は当該区間につき、列車等の運行を一定期間休止せしめる業務上の措置をとることをいうものと解すべきである。

本件ストによる列車の運転中断は、右にいわゆる物理的障害による「運行不能」でもないし、又、国鉄の列車管理に関する業務上の措置としての「運転休止」でもない。従つて、本件に関しては、右規則の適用はないといわねばならない。

別言すれば、右規則は、一般的に列車等が正常に運行されている状態を前提にして、偶々、何等かの事故等が発生して、特定の列車等又は区間について、運行障害が発生した場合のことを予側して、そのときの処理指針を定めたもので、国鉄従業員のストによる列車等のストップを予測して、これもカヴァーする趣旨で制定されたものではない。即ち、本件ストにより列車の運転中断という事態については、規則の定めはないのであつて、この事態にまで規則が適用されるとする原判決は、規則の妥当範囲、適用範囲を誤りたるものである。この誤りは、結局、規則の細かな解釈論をなおざりにしたからに外ならない。まさに、法令解釈の誤り、法令適用の誤りというべきである。第四点(訴訟法違反=請求の一部認容の可能性)<省略>

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