大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和54年(オ)730号 判決 1980年1月24日

上告人

拓成土木株式会社

右代表者

中島学

被上告人

後藤祐四郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

債務者の行為が詐害行為として債権者による取消の対象となるためには、その行為が右債権者の債権の発生後にされたものであることを必要とするから、詐害行為と主張される不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前にされたものである場合には、たといその登記が右債権成立後にされたときであつても、債権者において取消権を行使するに由はない(大審院大正六年(オ)第五三八号同年一〇月三〇日判決・民録二三輯一六二四頁参照)。けだし、物権の譲渡行為とこれについての登記とはもとより別個の行為であつて、後者は単にその時からはじめて物権の移転を第三者に対抗しうる効果を生ぜしめるにすぎず、登記の時に右物権移転行為がされたこととなつたり、物権移転の効果が生じたりするわけのものではないし、また、物権移転行為自体が詐害行為を構成しない以上、これについてされた登記のみを切り離して詐害行為として取り扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることも、相当とはいい難いからである(破産法七四条、会社更生法八〇条の規定は、これらの手続の特殊性にかんがみて特に設けられた規定であつて、これを民法上の詐害行為取消の場合に類推することはできない。)。それ故、本件につき詐害行為の成立を否定した原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(団藤重光 藤崎萬里 本山亨 戸田弘 中村治朗)

上告人の上告理由

一、被上告人父子間の本件贈与は強制執行を免脱する為の偽装である。仮に偽装ではないとしても贈与が為されたのは上告人の債権発生後であるから詐害行為が成立する。贈与のなされた日が債権発生の前であるか後であるかは登記日によつて決せられるべきである。というのが上告人の第一審以来の主張である。

これに対して原判決は「控訴人の債権を詐害すべきものは贈与行為そのものであつて登記には関係が無いから、債権発生前になされた本件贈与はたとえ登記日がいつになつていても詐害行為にはならない」と判示して控訴人の請求を棄却した。

二、しかし、不動産の物権変動を以て第三者に対抗するには登記が必要であり、かつ対抗力が発生するのは登記日からであるから、本件登記が為されたのは債権発生後であることが明白である以上被控訴人は右物権変動を以て上告人に対抗することはできない。

対抗できないということは物権変動があつたことを主張できないということであるから、被上告人は右贈与が実は登記日以前になされたこと即ち債権発生以前になされたことを主張できず、従つて詐害行為成立要件の欠缺を主張することはできない。

原判決が謂うように「不動産の物権変動は事実だけを尊重すべきであり、登記とか対抗力とかいうようなものは考へる必要がない」ということになれば民法第一七七条は空文に帰し、登記制度は存在価値の大部分を失つてしまうことになる。

原判決は民法第一七七条の法律に違反しているから取消を求める。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例