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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(あ)654号 判決 1981年7月16日

主文

原判決中「当審における未決勾留日数一〇〇日を本刑に算入する。」との部分を破棄する。

原審における未決勾留日数九二日を本刑に算入する。

その余の部分に対する本件上告を棄却する。

理由

検察官の上告趣意について

記録によれば、被告人は、本件窃盗事実の一部を被疑事実として、昭和五五年一〇月一四日勾留状の執行を受け、勾留中起訴され、同年一二月一八日大阪簡易裁判所において懲役一年二月の判決の言渡を受け、同月二五日控訴の申立をし、引き続き勾留のまま同五六年三月二七日原裁判所において、「本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中一〇〇日を本刑に算入する。」との判決の言渡を受けたものであることが明らかであつて、原審における未決勾留日数は、右控訴申立の日である同五五年一二月二五日から原判決言渡の日の前日である同五六年三月二六日までの九二日であることが認められる。

ところで、現実に存在しない未決勾留日数を本刑に算入することが刑法二一条の適用を誤り違法であることは、所論引用の当裁判所の判例の示すところであるから(当裁判所昭和三八年(あ)第二九六五号同四一年一月一八日第三小法廷判決・裁判集刑事一五八号一頁、昭和四二年(あ)第四四三号同年四月一四日第三小法廷判決・裁判集刑事一六三号七九頁及び昭和五一年(あ)第六一三号同年七月九日第二小法廷判決・裁判集刑事二〇一号一九一頁)、原判決が、被告人の原審における未決勾留日数は九二日であるのに、右日数を超えて原審における未決勾留日数中一〇〇日を本刑に算入する旨言い渡したことは、刑法二一条の適用について右判例と相反する判断をしたものといわなければならない。論旨は、理由がある。

よつて、刑訴法四〇五号二号、四一〇条一項本文、四一三条但書により、原判決中「当審における未決勾留日数中一〇〇日を本刑に算入する。」との部分を破棄し、刑法二一条により原審における未決勾留日数九二日を本刑に算入することとし、原判決中その余の部分に対する上告は、上告趣意としてなんら主張がなく、従つてその理由がないことに帰するから、刑訴法四一四条、三九六条により棄却することとし、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官団藤重光、同谷口正孝の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官団藤重光の反対意見は、次のとおりである。

現実に存在しない未決勾留日数を本刑に算入することが許されないのはもちろんであつて、この点に関するかぎり、わたくしも多数意見に同調する。ただ、多数意見が本件のようなばあいに一部破棄・一部上告棄却を言い渡すべきものとする点については、わたくしは見解を異にするので、当裁判所昭和五一年一一月一八日第一小法廷判決(刑集三〇巻一〇号一九〇二頁)におけるわたくしの反対意見(その後段の部分)をここに援用する。私見においては、主文は、「原判決を破棄する。本件控訴を棄却する。原審における未決勾留日数九二日を本刑に算入する。」となるべきところである。

裁判官谷口正孝の反対意見は、次のとおりである。

私も団藤裁判官の反対意見に同調するものであるが、その理由として、特に、同裁判官が指摘されるように本件上告は原判決に対する全部上告と解するほかないものであるから(昭和五一年(あ)第七六一号同年一一月一八日第一小法廷判決・刑集三〇巻一〇号一九〇六頁に示された同裁判官の反対意見参照)、上告理由が認められる以上、原判決の全部を破棄するのが当然であつて、一個の裁判の一部破棄・一部棄却ということは論理上おかしいということをいいたい。しかも、未決勾留日数が算入されたときは、本刑について算入された日数に相当する刑が執行されたとみなされる効果があるのであるから、未決勾留日数の算入と本刑とは不可分一体の関係にあるものというべく、これを可分なものとして扱うことはできないものである。すなわち、本刑と未決勾留日数の算入とは本来一個の裁判と解すべきであるから、上告審において上告理由に応答するに際し、これを可分的に扱い、未決勾留日数の算入の部分については破棄、その余の部分すなわち本刑に関する部分については棄却ということは許されないところである。してみれば、未決勾留日数の算入の点について原判決に違法がある以上、その全部を破棄するのが当然である。私も原判決には現実に存在しない未決勾留日数を本刑に算入した違法があるものと認める点では多数意見に賛成するものではあるが、原判決中未決勾留日数の算入の部分に限り一部破棄すれば足りるとする多数意見に左袒することはできない。原判決の全部を破棄し、自判すべきものと考える。

なお、多数意見が先例とする当裁判所の判例は変更されるべきものと思う。

(団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 中村治朗 谷口正孝)

検察官の上告趣意

原判決は、未決勾留日数の算入に関し、最高裁判所の判例に反して刑法二一条を適用した違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れないものと思料する。以下、その理由を述べる。

原審は、第一審判決に対する弁護人の控訴について、「本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中一〇〇日を本刑に算入する。」との判決を言い渡したが、記録によると、被告人は、本件について、昭和五五年一〇月一四日勾留状の執行を受け(記録九一丁)、勾留中起訴され(同一丁)、同年一二月一八日大阪簡易裁判所において「懲役一年二月に処する。未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。」旨の判決言渡しを受け(同一二丁)、同月二五日弁護人から控訴の申立がなされ(同一四丁)、引き続き勾留のまま同五六年三月二七日原判決の言渡しを受けたものであるから、原審における未決勾留日数は、右控訴申立の日である昭和五五年一二月二五日から原判決言渡しの前日である同五六年三月二六日までの九二日であることが明らかである。

ところで、現実に存在しない未決勾留日数を本刑に算入することが刑法二一条の適用を誤り違法であることは、昭和四一年一月一八日最高裁判所第三小法廷判決(同三八年(あ)第二九六五号、裁判集刑事一五八号一頁)、同四二年四月一四日最高裁判所第三小法廷判決(同年(あ)第四四三号、裁判集刑事一六三号七九頁)、同五一年七月九日最高裁判所第二小法廷判決(同年(あ)第六一三号、裁判集刑事二〇一号一九一頁)の各判示するところであつて、原判決が、被告人の原審における未決勾留日数九二日を超えて原審における未決勾留日数中一〇〇日を本刑に算入する旨言い渡したのは、刑法二一条の適用につき右判例と相反する判断をしたものといわざるを得ず、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである。

以上の次第により、刑事訴訟法四〇五条二号、四一〇条一項により原判決を破棄の上、更に適正な裁判がなされることを求めるため、本件上告に及んだ。

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