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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(行ツ)147号 判決 1983年3月03日

上告人

田中正次

右訴訟代理人

島田稔

被上告人

タイガー魔法瓶工業株式会社

右代表者

菊池嘉人

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人島田稔の上告理由書及び上告理由補充書記載の上告理由について

請求公告をすべき旨の決定がされても、願書に添付した明細書又は図面の訂正の効果が生じるものではないから(実用新案法四一条によつて準用される特許法一六四条二項、一六五条一項参照)、請求公告の決定がされたことにより右訂正の効果が生じたことを前提とする所論事実誤認の主張は、その前提を欠き、また、将来訂正審判請求に対する審決の確定によつて再審事由が生ずる可能性があるとしても、その故をもつて原判決に法令違反があるとすることはできない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(藤﨑萬里 団藤重光 中村治朗 谷口正孝 和田誠一)

上告代理人島田稔の上告理由書記載の上告理由

一、原判決は判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認がある。即ち

(一) 上告人は本件実用新案に関し、昭和五七年四月二〇日特訂庁に対し、第一〇一五二五五号登録実用新案訂正審判事件として訂正審判請求をなし、当該事件は昭和五七年審判第七三八八号件名第一〇一五二五五号登録実用新案に関する訂正の審判事件として係属中のところ、同年七月二日同庁において、本件審判請求は公告すべきものと決定する旨の審判がなされた。

そして右訂正審判の内容は別紙訂正明細書記載のとおりである(請求公告の決定写及び訂正審判請求書写を参考資料として添付する。)

(二) ところで右訂正された本件実用新案の考案は第一引用例(甲第三号証)及び第二引用例(甲第四号証)に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができるものではないのである。

即ち

本件考案では、駆動モーター5は、これを緊締するボルト11、11の軸心を結ぶ直線をほぼ軸線として傾動し、その回軸6のプーリ3に対し離間するように弾力褥座盤10、10、及び座盤102、12、102、12により弾力的に台枠板4上に緊締して据えつけられているのに対し、右第二引用例ではモーター1は、モーター支持台3上に、緩衝体6、座板14、15などにより、前後方向に偏位しないように、その位置が充分に規制されて据えつけられているから右本件考案の構成については記載は勿論何に、も示唆されていない。

そして本件考案は前記の構成とその他の構成とが相俟つて前記第一及び第二引用例では勿論、これらを結合しても期待することができない特殊の作用効果(駆動モーター5は、べルト8の弛緩あるいは餅搗機攪拌翼1にかかる負荷が変動して大になつたりまたは小になつたりする際のベルト8の緊弛に応じて、それぞれ弾力褥座盤101、101及び座盤102、12、102、12の弾力により、プーリ7がプーリ3に対して離間したりあるいはプーリ7が、プーリ3に対し、上記弾力に抗して近接したりするように、駆動モータ軸6を、該モータ5の下部両側の支持翼杆9、9を緊締するボルト11、11の軸心を結ぶ直線をほぼ軸線として任意に傾斜させて、べルトを常に緊張状態にして該攪拌翼1を回転するから、従来の餅搗機が備えていたベルト緊締装置を設ける必要がなく、従つて構造が簡単で安価な餅搗機を提供することができる。)を奏することもできるものである。

(三) してみれば本件考案は前記公知例の第一及び第二引用例に記載されている考案に基いて極めて容易に考案できるものではなくなつたと云うべきである。

二、なお原判決は右のほか、民事訴訟法第四二〇条第一項第八号に所謂判決の基礎となつた行政処分が後の行政処分に依りて変更せられたるときの再審事由にすら該当するものである。

同上告理由補充書記載の上告理由

一、上告人提出にかかる上告理由書第一項(一)記載のとおり、本件実用新案に関し、昭和五七年七月二日特許庁において本件訂正審判請求に対し、実用新案法第三九条、第四一条特許法第一、六四条二項によつて右訂正審判が適法相当であるとの判断のもとに、本件審判請求は公告すべきものと決定するとしている

従つて今後右公告がなされ、右訂正審判に対する審決が確定するにおいては、民事訴訟法第四二〇条第一項第八号の所謂判決の基礎となつた行政処分が後の行政処分に依りて変更せられたるときの事由に該当するので、原判決は判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があつたものと云うことになる(最高裁判所昭和五三年(行ツ)第四七号事件ご参照。)

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