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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(あ)208号 判決 1987年7月09日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人中村浩紹の上告趣意第一点は、憲法三六条、二五条違反をいうが、所論が理由のないことは、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第一一九号同二三年三月一二日大法廷判決・刑集二巻三号一九一頁)の趣旨に徴し明らかであり、同第二点は、量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当たらない。

被告人本人の上告趣意のうち、憲法三六条違反をいう点が理由のないことは、前示のとおりであり、その余は、違憲をいうかのような点を含め、実質は量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当たらない。

また、所論(弁護人安田好弘、同岩田宗之、同加藤毅及び同伊藤邦彦の当審における所論をも含む。)にかんがみ、記録を調査しても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない(本件は、被告人が、愛人との生活や競輪競馬のために生じた借金を返済するため、女子学生を誘拐して殺害するとともに、その家族から高額のみのしろ金を奪取しようと企て、新聞紙上で家庭教師のアルバイト先を求めていた被害者(当時二二年)を家庭教師を依頼する名目で誘い出し、自己の運転する自動車の助手席に乗せた上、あらかじめ準備しておいたロープにより被害者の頚部を絞め付けて殺害し、多数回にわたり被害者の家族に電話をかけてみのしろ金三〇〇〇万円を要求する一方、遺体は梱包して木曽川に投棄した事案である。右のとおり、本件は、金銭欲に出た誘拐殺人、みのしろ金要求、死体遺棄という罪質、結果ともに極めて重大な犯罪であって、しかもそれが計画的に敢行されており、動機に酌量の余地はなく、殺害態様も冷酷非情である。以上のほか、遺族の被害感情、社会的影響などに照らすと、被告人が現在では反省していることや、前科としては窃盗罪にかかるものが一件あるのみであることなどを考慮しても、被告人の罪責はまことに重く、原判決が維持した第一審判決の死刑の科刑は、当裁判所もこれを是認せざるを得ない。)。

よって、刑訴法四一四条、三九六条、一八一条一項但書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巌)

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