最高裁判所第一小法廷 昭和58年(あ)508号 決定 1984年10月15日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人平井二郎、同長井導夫の上告趣意は、憲法三一条、八四条違反をいう点を含め、実質は、地方税法一二二条一項、一一三条二項の解釈適用の誤りをいう単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
なお、地方税法一二二条一項にいう同法一一九条二項の規定により徴収して納入すべき料理飲食等消費税に係る納入金とは、更正処分により更正された金額ではなく、同法一一三条一項の規定により、飲食店等の利用行為に対し、料金を課税標準として、利用行為者に課す金額をいうのであり、したがつて、特別徴収義務者がその金額を納入期限までに納入しなかつたときは、直ちに同法一二二条一項の不納入罪が成立するのであつて、右納入期限経過後に同法一二四条により都道府県知事が更正処分を行つたとしても、そのことにより不納入罪の成立になんらの消長を来すものではない(最高裁昭和二六年(あ)第九九〇号同二九年一一月一〇日大法廷判決・刑集八巻一一号一七四九頁、同昭和三五年(あ)第一三五二号同三六年七月六日第一小法廷判決・刑集一五巻七号一〇五四頁、同昭和二九年(オ)第二三六号同三三年四月三〇日大法廷判決・民集一二巻六号九三八頁参照)。
また、原判示バー「ナイトスポット」の経営者が利用客に対し、同店備付けの料金表に表示されている金額以上の飲食代金を請求し、その中に所論のいう計算違いに基づく超過部分が含まれていたとしても、右超過部分が僅少であるうえ、従前同店においては、利用客に対し飲食代金を請求する際右料金表に基づいて飲食代金を算出するが、利用客にはその明細を示さずに総額のみを告知し、利用客においても飲食代金の明細について説明を求めるようなことはせず、ほとんどが請求された代金に異議を留めないまま支払つており、所論のいう計算違いの分も右のような経過で支払われたことが窺われるなど、原判決の認定した事実関係の下において、所論のいう計算違いに基づく超過部分も含め、同店の請求した飲食代金全額が地方税法一一三条二項にいう料金にあたるとした原判断は、正当である。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(和田誠一 藤﨑萬里 谷口正孝 角田禮次郎 矢口洪一)
《参考・原判決理由(抄)》
控訴趣意第二点の第一(法令適用の誤りの主張)について
所論は、要するに、飲食代金等の計算を誤つて、利用客から過大な料金を徴収した場合、その超過料金は利用客に返還すべきものであるから、その分については地方税法一一三条二項の「料金」には含まれないのに、これも含まれるとし、これに同法一二二条を適用した原判決には法令適用を誤つた違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
そこで、検討すると、ナイトスポットにおいて、同店の利用客に対し、飲食代金を過大に請求したとされるものは、原判決添付別紙(三)記載のとおり、昭和五一年一二月分の一四六〇円、昭和五二年二月分の四三四〇円、同年三月分の一四〇〇円、同年八月分の五〇円、同年九月分の一四〇円のみであつて、これらの各月毎の課税標準額に対して占める割合は僅少であるので、仮に原判決に地方税法一二二条の適用を誤つた違法があるとしても、その違法は判決に影響を及ぼさないものといわなければならない。所論に鑑み、さらに検討すると、飲食店に備え付けてある料金表は、一応商品の標準価額を表示したもので、これにより利用客をして、利用契約の申込みをさせようとする申込みの誘引に過ぎず、利用客の申込みにより直ちに契約が成立し、飲食店の経営者において、全く再考の余地を残さない性質のものとは認め難く、したがつて、経営者が利用客に対し、右料金表に表示されている金額以上の飲食代金を請求し、しかもその超過部分が僅少であつて、利用客もこれに異議を留めることなく、その支払請求に応じたときは、両者間に右請求代金全額について合意が成立したものと解されるから、標準価額を超過した分も地方税法一一三条二項にいう利用行為と対価関係のある料金に含まれるものと解するのが相当である。ところで、関係各証拠によると、ナイトスポットでは、簡単な料金表やメニューを店内に備え付けており、そして、利用客に対し、飲食代金を請求する際には、右料金表に基づいて飲食代金を算出するが、利用客にはその明細を告知せず、総額のみを告知し、また、利用客も飲食代金の明細について説明を求めるようなことはせず、ほとんどが請求された代金に異議を留めないまま支払つており、所論のいう計算違いの分も右のような経過で支払われたことが認められる。そうだとすると、ナイトスポットと利用客との間で、同店の請求した飲食代金全額について合意が成立したものであつて、所論がいう計算違いの部分も地方税法一一三条二項の料金に含まれるものというべきである。右と同旨の見解に立つて被告人を処断した原判決には法令適用の誤りはないから、論旨は理由がない。