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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(あ)1396号 決定 1985年1月16日

本店の所在地

静岡県浜名郡可美村若林二六二四番地の一

法人の名称

大富建設株式会社

右代表者代表取締役

谷田康雄

本籍

兵庫県三原郡西淡町志知鈩三九七番地

住居

静岡県浜名郡可美村若林二六二四番地の一

会社役員

谷田康雄

昭和二三年三月二四日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、昭和五九年一〇月一日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件の上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人杉山年男、同荒川昇二の上告趣意は、憲法三六条違反をいう点を含め、実質は量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一 裁判官 角田禮次郎 裁判官 矢口洪一)

○ 上告趣意書

被告人 大富建設株式会社

被告人 谷田康雄

右両名に対する法人税法違反被告事件の上告趣意書は次のとおりである。

昭和五九年一一月二四日

弁護人 杉山年男

弁護人 荒川昇二

最高裁判所第一小法廷御中

第一点 原判決は憲法第三六条の違反があり、原判決は破棄されなければならない。

原判決は一審判決(被告会社を罰金八〇〇万円に処し、被告人を懲役一年及び罰金一六〇〇万円に処し、その懲役刑を三年間猶予した)が重過ぎて不当であるとは言えないと述べている。

しかしながら、被告人は本件とほぼ併行して廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の事件につき審理を受けてきたが、右事件についてはもともと実刑判決を受ける蓋然性が高かったものであり、したがって本件の判決が仮りに執行猶予を付されたとしても必要的に取り消されることとなるおそれがきわめて強かった(実際に被告人は昭和五九年一〇月二日右事件により懲役六月の実刑判決が言い渡され、同月十六日確定したので、本件の判決の執行猶予の言渡しが取り消されることは確定した)のであるが、このことを第一審も十分知っていたはずである。

それにもかかわらず、第一審も原審も被告人両名に前記のとおりの判決を下したのである。

その結果、被告人は、廃棄物の処理および清掃に関する法律違反による懲役六月の実刑、また同罪による懲役六月・三年間執行猶予の確定裁判の執行猶予が取り消されることになるための懲役六月の受刑、そして本件による懲役一年・三年間執行猶予の裁判の執行猶予が取り消されることになるための懲役一年の受刑により、合計二年間も刑務所生活を送らなければならない。

このこと自体、被告人の犯した犯罪の内容程度・態様からしてあまりにも重すぎるものであり、そのうえ、現在ほとんど資力を失ってしまっており、かつ、これから二年間の刑務所生活およびその後の社会復帰・資力回復の困難が予想されるなかで被告人を罰金一、六〇〇万円被告会社を罰金八〇〇万円に処するというのは、被告人両名に対し不可能を強いるものである。

本件についての第一審判決も、これを容認した原審の判決も、まさに一人の人間に不当に精神的・経済的苦痛を課し社会的に抹殺してしまう効果のあるもので、実質的には残虐な刑罰と異なるところはない。

よって原判決は憲法第三六条の違反があるものであり、原判決は破棄されなければならない。

第二点 原判決は刑の量定が甚しく不当であって、これを破棄しなければ著しく正義に反する。

1. 原判決は一審判決(被告会社を罰金八〇〇万円に処し、被告人を懲役一年及び罰金一、六〇〇万円に処し、その懲役刑を三年間猶予した)が重過ぎて不当であるとは言えない根拠として、

<1> 逋脱法人税額は合計九、三八四万三、三〇〇円で多額であり、税逋税の割合は九八パーセントを超える高率である。

<2> 逋脱の動機は被告人谷田の個人資産を増やすことで酌量の余地はない。

<3> 逋脱の手段方法は経常的に売上の一部を除外し、決算期に経費の莫大な水増計上等をし、担当税理士が是正するように助言したのに全く耳を傾けることなく強引に虚偽過少の法人税確定申告をした計画的・意図的なものであった。

と述べている。

2. ところで右の<1>についてはともかく、<2>についていえば、被告人の人生観にはその父親による特異な家庭教育による影響があり、そのぬきさしならない影響下に被告人が本件を企てたという背景事情があるのをほとんど軽視している。

また<3>についていえば、高林税理士が被告人に対して正しい税務指導をするべき税理士としての職責を放棄し、右手で虚偽の法人税申告の手助けをしながら左手でそれを税務署に通告するという信じがたい行為をし、被告人はいわばつくられた犯罪の犠牲者となってしまったという側面を軽視し、あたかも被告人一人だけで強引に本件を惹起したかのように判断している。

3. しかも、被告人は本件とほぼ併行して廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の事件につき審理を受けてきたが、懲役六月に処する実刑判決が昭和五九年一〇月一六日の経過により確定した(そして被告人は同年一一月七日収監された)。

その結果、本件についてたとえ被告人に対して執行猶予が付せられてもそれが必要的に取消されることとなってしまう。

ところで、第一審も原審も、本件のほかに被告人が別の裁判所で実刑判決を受ける蓋然性のきわめて高い右事件についてほぼ時期を同じくして裁判を受けていたことは十分わかっていたのである。

したがって第一審も原審も本件につき判決をするに際して、仮りに被告人に対して執行猶予を付すべき事案であると判断したならば、本件の特殊事情を考慮し、執行猶予が取り消されるべきことを予期したうえで求刑を下回る刑期の懲役刑を宣告するべきであった。

それにもかかわらず第一審は漫然と求刑を維持したまま執行猶予を付したものであり、かつ、原審はその判決を不当ではないと述べている。

しかしながら右第一審判決も原審判決もその量刑は甚しく不当である。

それは本件よりさらに悪質な事案のため第一審が当初から懲役一年の実刑判決を宣告した場合と比較して想定すればきわめて明らかである。

なぜならば、この場合は、より悪質な情状のため実刑判決を受けた事案と、よい情状のため執行猶予を付された事案とで、結果的には差がなくなってしまい判決の自己矛盾を生ずるからである。

それゆえに本件においては実質的に執行猶予を付するのと同じ利益を被告人に与えるためには求刑をはるかに下回る懲役刑に処するべきだったのであり、その意味で原判決は刑の量定が甚しく不当であるといわなければららない。

また、同じ理由で(被告人が廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の罪で実刑が確定した現在ではなおさら)本件に付された執行猶予が取り消されて、被告人が長らく刑務所に収監されることにより被告人両名の担税力が一層低下することになることは明らかであって、そうなれば、被告会社に八〇〇万円、被告人に一、六〇〇万円の罰金を科するのは不可能を強いるものであり、これまた刑の量定が甚しく不当であるといわなければならない。

4. 以上のとおり、原判決は本件の背景事情や高林税理士のはたした役割を不当に軽視し、また本件判決の執行猶予が取り消されることの重大性について全く配慮を欠いており、そのために被告人両名に対する刑の量定が甚しく不当であり、これを破棄しなければ著しく正義に反するということができる。

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