大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和62年(行ツ)32号 判決 1988年9月08日

上告人

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衞門

右指定代理人

渡部吉隆

船岡實

池田稔

斎藤正紀

上告補助参加人

全関東単一労働組合

右代表者執行委員長

片山岩一

右訴訟代理人弁護士

里村七生

三浦宏之

被上告人

京セラ株式会社

右代表者代表取締役

稲盛和夫

右訴訟代理人弁護士

成富安信

中町誠

小島俊明

右当事者間の東京高等裁判所昭和五九年(行コ)第七四号不当労働行為再審査申立一部棄却命令取消請求事件について、同裁判所が昭和六一年一一月一三日言い渡した判決に対し、上告補助参加人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡部吉隆、同船岡實、同近藤紘一、同池田稔及び上告補助参加代理人里村七生、同三浦宏之の各上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、右事実関係のもとにおいては、旧サイバネット工業株式会社が片山昭子に対してした退職扱い及び上告補助参加人に対してした団体交渉の拒否はいずれも不当労働行為に該当しないとした原審の判断も、正当として是認するに足りる。原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点も含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

上告代理人の上告理由

第一 原判決は、本件一審判決を取消し、上告人委員会が被上告人会社に対して、被上告人会社(同社に合併される以前はサイバネット工業株式会社。以下「旧会社」という)の片山昭子(以下「片山」という)に対する昭和五五年八月一〇日付け退職通知がなかったものとして取扱うことを命じた救済命令主文第一項を取消しているが、原判決の右判断には労働組合法(以下「労組法」という)第七条第一号の解釈を誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

一 被上告人会社が片山に対し昭和五五年八月一〇日付けで退職通知をして同人を同日以降退職したものとして取扱ったことが不当労働行為に該当するかどうかは、被上告人会社の右行為が、片山が労働組合の正当な行為をしたことの故をもってなされたものであるかどうかにかかるものである(労組法第七条第一号)。

この点につき上告人委員会は、<1>旧会社は、片山の休職期間を就業規則に定めるところの最短期間である二カ月とし、その期間満了当時片山から提出された同年八月一日付け診断書によれば休職期間の延長を考慮する余地があったかも知れないのに、全くこの点を顧慮することなく、<2>上告人補助参加人組合(以下「組合」という)が片山の疾病を業務に起因する職業病として取扱うよう要求して団体交渉を申入れているのに対し、誠意をもって交渉に応じることなく、<3>川崎北労働基準監督署(以下「労基署」という)も旧会社に対して業務上疾病の疑いがあるので慎重な取扱いをするよう要請しているにもかかわらず、これに応じることなく、当初定めた休職の最短期間である二カ月の満了をもって直ちに退職扱いとしたことは、性急にすぎ穏当を欠くものであり、このことと、片山が旧会社内唯一名の組合員で分会長でもあり、旧会社との間で川崎工場閉鎖、玉川作業所への配置転換等に関連する不当労働行為救済申立事件等について、組合活動を行ったこととを併せ考えると、旧会社の片山に対する退職の取扱いは、旧会社が片山の組合活動を嫌悪してなしたものであり、片山の正当な組合活動の故をもってなされた不当労働行為に該当するものと判断したのである。なお、労基署は、昭和五六年二月、片山の疾病を業務に起因するものとして、休業補償給付の支給を決定しており、このことも、右上告人委員会の判断の妥当性を裏付けるものである。

しかるに、原判決は、旧会社が片山に対して、その疾病について専門医の診断を受けるように求め、片山がこれを拒否したという事情のもとで、旧会社が片山の休職期間満了時点で同人の疾病が業務に起因するものとは認めず、復職の望みがないものと判断したことはやむをえないものとして、同人に対する退職扱いは不当労働行為に該当すると断ずることはできないと判示している。

しかしながら、右に述べたように、不当労働行為の成否は使用者の、その雇用する労働者に対する不利益取扱いが当該労働者の正当な組合の行為の故をもってなされたものであるかどうかにかかるのであって、仮に原判決の判示するように旧会社が片山に対して専門医の診断を受けるように指示することができるとしても、そのような措置をとることによって、片山を休職期間満了を理由として、退職扱いとするような立場に追いつめ、そのことが片山の正当な組合の行為の故をもって同人を企業から排除することを企図してなされたものであるならば、不当労働行為は成立するのである。

原判決は、この点を看過して、旧会社が片山に専門医の診断を受けるよう指示したことが合理的かつ相当な理由のある措置であり、片山がこれを拒否し続けたことは許されないと判示することによって、不当労働行為の成立を否定したことは、労組法第七条第一号の解釈を誤ったものであり、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

二 原判決はさらに、本件のような事情のもとにおいて、旧会社が片山に対して専門医の診断を受けるように求めることが、労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であること、及び片山が右指示を拒否し続けたことは許されないところであると判示している。

しかしながら、労働者の疾病が業務に起因するかどうかの判断をするにあたり、使用者が指定する専門医の診断を求めることができる場合があるとしても、本件のような事情のもとにおいて、旧会社がそれを求めることに合理性ないし相当性を認められるかどうかみなければならないのである。

すなわち、御庁の帯広電報電話局事件判決(昭和六一年三月一三日 労働判例四七〇号 六頁)は、「一般的に個人が診療を受けることの自由及び医師選択の自由を有することは当然である」と判示し、右に続けて、「公社職員が公社との間の労働契約において、自らの自由意思に基づき、右の自由に対し合理的な制限を加え、公社の指示に従うべき旨を約することが可能であることはいうまでもなく(最高裁昭和二五年(オ)第七号同二七年二月二二日第二小法廷判決・民集六巻二号二五八頁)、また、前記のような内容の公社就業規則及び健康管理規程の規定に照らすと、要管理者が労働契約上負担していると認められる前記精密検診の受診義務は、……健康管理従事者の指示する精密検診の内容・方法に合理性ないし相当性が認められる以上、要管理者に右指示に従う義務があることを肯定したとしても、要管理者が本来個人として有している診療を受けることの自由及び医師選択の自由を侵害することにはならないというべきである。」と判示しているのである。これは、労働者の医師選択の自由及び受診の自由を制約しうるのは、労働者自身の自由意思に基づく労働契約による以外許されず、しかもその制約は合理性を有するものでなければならないとしているのである。

しかるに、本件では、旧会社の就業規則及び旧会社と片山の間に、受診の自由及び医師選択の自由を制約する旨の合意がなされた事実は全く認められず、かえって、組合の昭和五五年六月二四日付け申入れに基づく七月八日開催の団体交渉において、旧会社は初めて、従業員の疾病の業務起因性を判断するために指定医の診断が必要であると述べ、同月一六日に至り旧会社は、片山に対して指定医の診断を求める旨を通知し、しかも、その後旧会社は、組合の指定医制度導入を撤回すること等を議題とする団体交渉申入れにも応じることなく、七月三〇日付けで再度片山に対して指定医の診断を受けるよう通知しているのである。右の経緯をみれば明らかなとおり、旧会社には、片山に対して指定医の診断を受けるよう求める権限をもたないといわなければならない。

したがって、旧会社が片山に対し旧会社の指定する医師の診断を受けるよう指示したことは合理的かつ相当な措置であり、片山はこれに応ずる義務があり、同人が右指示を拒否し続けたことは許されないという原判決の判示は、前記御庁の判例に違背するものといわなければならないのである。

そうとすると、原判決が就業規則等に根拠がない本件において「労使間における信義則ないし公平の観念に照らし」、片山の医師選択の自由及び受診の自由を制約しうるとして、同人が右指示を拒否し続けたことは許されず、旧会社が同人を本件退職扱いにしたことをもって不当労働行為に該当するということはできないと判示したことは、御庁の判例に違背し、結局労組法第七条第一号の解釈を誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

なお、原判決は、「もっとも、片山において右指定医三名の人選に不服があるときは、その変更等について会社側と交渉する余地があることは、……明らかである」と判示する(一二枚目表七行目ないし一一行目)。しかしながら、前記一に述べたとおり、旧会社は、指定医制度の導入そのものをめぐる団体交渉に応じていないのであるから、組合員である片山が、団体交渉を求める組合の方針に従って、指定医の受診を拒否したことの責任、不利益を同人に負わせることは背理である。

三 原判決はまた、「片山は……熱心な組合活動を行い……旧会社としては不快の念をもっていたであろうことが推認され、また片山が昭和五六年二月川崎北労働基準監督署によってその疾病が業務に起因するものとして休業補償給付の支給決定を受けたことが認められるが、右事実も前記結論を妨げるものではない」(原判決一四枚目表二行目ないし一一行目)と判示する。

しかしながら、右の事実認定の第一の点は、片山が労働組合の正当な行為をしたことに対し旧会社が不快の念をもっていたことを推認しているのであり、そのような旧会社が片山に対して不利益な措置をとりがちなことは経験則上明らかである。また、事実認定の第二の点は、片山の疾病が業務に起因するものであることを行政庁である労基署が認めているのであり、それによると旧会社がとった措置は就業規則上も誤りであったことを示しているものである。

したがって、本件の不当労働行為の成否を判断するにあたり、右の事実を斟酌しない原判決は、労組法第七条第一号の解釈を誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

第二 原判決は、誠意をもって組合との団体交渉を行わない被上告人会社に対し、誠意をもって団体交渉に応じることを命じた上告人委員会の本件命令主文第二項を取消しているが、原判決の判断には労組法第七条第二号の解釈を誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

一 組合が昭和五五年七月二二日付けで申入れた団体交渉の交渉事項は、片山の疾病を業務に起因するものと認めること、指定医制度導入を撤回すること、休職期間通知を取り消すこと等、片山の疾病と休職取扱いに関連する事項である。そして、旧会社が片山に対して同年八月一〇日付け退職通知及び同日以降退職したものとして取扱っていることが不当労働行為にあたることは前記第一に述べたとおりである。

そうとすれば、旧会社は、片山に対して退職通知がなかったものとして取扱わなければならないのであり、したがって、同人の疾病と休職取扱いや指定医制度等同人の労働条件について、組合が申入れた団体交渉に旧会社は、誠意をもって応じなければならないのである。

それにもかかわらず、旧会社は、同年七月二九日付け回答書において、労使間の問題というよりも片山個人の休職取扱いの問題であり、また、すでに同月八日の団体交渉で説明済みであって団体交渉になじまない等と述べ、その後も、片山に対して指定医の診断を受けるよう通知し、組合に対して業務起因性は認められず、休職期間延長はできないと説明したのみで、八月一〇日付けの退職通知を行っているのである。このように、旧会社は、片山個人と話合いたいとの姿勢をとり続け、組合を無視して団体交渉に応じなかったのであって、とうてい団体交渉を拒否する正当な理由があるとは認められないのである。

ところが原判決は、片山が八月一〇日限りで退職となったものであるから、旧会社の団体交渉拒否に正当な理由があると判示するのであって、原判決の右判断は、労組法第七条第二号の解釈を誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

二 仮に、旧会社の片山に対する本件退職取扱いが不当労働行為に該当しないとしても、本件団体交渉拒否に正当な理由があるということはできない。

すなわち、かつて雇用されていた者であっても、雇用関係の係属中の問題(例えば、賃金の不払い)あるいは、雇用関係の解消そのもの(例えば、使用者からする整理解雇)が問題とされる場合には、依然、労組法第七条第二号にいう「雇用する労働者」と認められている。蓋し、かく解さなければ、使用者は、雇用関係を絶つことによって、労働組合などとの交渉を回避できるという不合理な結果を招来するからである。そして、本件においては、組合及び片山が、まさに雇用関係係属中の問題あるいは雇用関係の解消そのものを争っているのである。

そうとすれば、組合は、本件団体交渉を申入れることができ、旧会社が団体交渉を拒否することには正当な理由がないといわなければならない。

ところが原判決は、片山は、「昭和五五年八月一〇日限り旧会社を退職となったものというほかはないから、補助参加人組合が片山の退職取扱いに関して昭和五五年七月二二日付けで申し入れた事項に関する団体交渉の要求に対し、旧会社が応じなかったことには正当な理由がある」(一四枚目裏九行目ないし一五枚目二行目)と判示し、あたかも片山に対する退職取扱いが不当労働行為にあたらないのであるから、同人の労働条件に係る組合の団体交渉申入れに旧会社が応じないことに正当な理由があると判断しているのである。

しかし、かつて雇用されていた片山が、雇用関係の解消そのものを争っている本件においては、旧会社は、「雇用する労働者の代表者」である組合の申入れる団体交渉を正当な理由なく拒否してはならないのである。したがって、原判決の右判断には、労組法第七条第二号の解釈を誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

三 さらに、組合が昭和五五年七月二二日付けで申入れた団体交渉の要求事項は、本件命令書一〇頁に記載しているとおりである。

ところが原判決は、右二に引用のとおり「片山の退職取扱いに関して……」と判示しているが、その趣旨は明らかでない。右判示の意味するところは、片山が八月一〇日限りで旧会社を退職したものである以上、同日以降片山が旧会社の従業員であることを前提とする七月二二日付け申入れ事項の団体交渉に旧会社が応じる必要はないという趣旨かも知れない。あるいはまた、片山に対する退職取扱いが不当労働行為にあたらないのであるから、「退職取扱に関」する団体交渉に旧会社が応じる必要はないというという趣旨かも知れない。

しかしながら、前者の趣旨とするならば、前記二に述べたとおり、右判示は、労組法第七条第二号の解釈を誤るものである。また、後者の趣旨とするならば、本件団体交渉の要求事項には、「片山の退職取扱いに関」する事項がなかったのであって、その判断の前提を誤っているのである。

したがって、いずれにしても、原判決の右判断は、労組法第七条第二号の解釈を誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

第三 以上のとおり、本件退職取扱い及び本件団体交渉拒否は、いずれも旧会社の不当労働行為に該当するのであるから、被上告人に、右の件に関して組合に対し本件命令主文第三項に掲記のような文書を交付すべき旨を命じた上告人委員会の命令を取消した原判決は、労組法第七条第一号、同第二号の解釈を誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

以上

上告補助参加人代理人の上告理由

第一 原判決には憲法及び法令の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

すなわち、原判決は本件のような事情の下において被上告人会社(合併前はサイバネット工業株式会社。以下旧会社という)が片山昭子(以下片山という)に対して専門医の診断を受けるように求めることが労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であり、片山が右指示を拒否し続けたことは許されないと判断しているが、これは以下に述べるとおり誤りである。

一 基本的人権としての医師選択の自由、受診の自由

1(一) そもそも個人の尊厳は相互の人格が尊重され、不当な干渉から自らが保護されることによって確実なものとなる。それゆえ何人も自己の意思に反して他人に身体をふれられない権利を有するものである。これは医師による診察を受ける場合においても同様である。しかもこの場合自己の身体に関する秘密を知られることになるため、自己の身体に関する情報をコントロールできることが要請される。このように自己の身体に対する侵襲を伴ない、自己の身体的秘密に直接関連する受診行為においては、自己の信頼する医師による診察を受けることは個人の尊厳を維持し、個人の人格、身体の自由を守るうえで不可欠なものである。

したがって何人も個人として自らの信頼する医師を選択する自由(医師選択の自由)を有し、かつ受診するか否かを選択する自由(受診の自由)は憲法第一三条によって保障されているものと解すべきである(以下前記二つの自由を総称してたんに自由権という)。

(二) ところで右自由権は労使間においては憲法一三条のみならず労働安全衛生法六六条五項但書においても確認されていると考えるべきである。本条項の適用が法定健診に限られるべき理由は何ら存在しないからである。

すなわち、本条項は、法定健診が労働条件決定の前提をなすものであり、健診の結果異常なしとされた場合には業務遂行に必要な健康状態にあるものとして使用者に指揮命令通り労務の提供をなすべき義務が発生するのであるから、この健診において使用者の意を受けた医師の恣意を排除する必要があり労使間における労働者保護の見地から医師選択の自由、受診の自由を認めているのである。そして使用者としての安全配慮義務の履行の一態様としてなされる法定外健診の場合であっても健診それ自体で目的完了というのではなく、健診結果に基いて当然に労働条件等の改善に結びつけられるものであるから労働条件への波及という意味では法定健診と法定外健診を区別することはできない。法定外健診においても使用者の意を受けた医師の恣意を排除する必要があり、同様に前記自由権が認められるべきである。

(三) 以上のように自由権は個人の人格権、幸福追求権としてのみならず、労働関係における労働者の労働条件保護の要請からも認められるべき基本的人権の一つなのである。

2 医師選択の自由、受診の自由に対する制約

(一) 右自由権が基本的人権の一つであっても無制約でありえないことは他の基本的人権と同様である。しかしその制約は必要最小限のものでなければならず以下に述べるように、労使間においては、当該労働者が労働契約において自らの自由意思に基いて、右の自由に対し合理的な制限を加える場合であって右自由を制限することによって失われる労働者の利益と得られる会社の利益を比較衡量し、前記自由権の制限がその目的・内容・手続からしても合理的と認められる場合に限定されるべきである。

(二) しかしながら本件の場合、労働契約の内容たるべき指定医の受診に関する労働協約就業規則等は存在せず、又旧会社と片山の間で、医師選択の自由及び受診の自由を制限する旨の合意がなされた事実も一切存在しないのであるから、かかる事情の下、片山の医師選択の自由、受診の自由を制限することを肯定し、片山に受診義務を認めた原判決には憲法及び法令の解釈、適用を誤った違法が存するのである。

(三) ところで、御庁昭和五八年(オ)第一四〇八号帯広電報電話局事件(昭和六一年三月一三日判決、労働判例四七〇号六頁)判決は、「一般的に個人が診療を受けることの自由及び医師選択の自由を有することは当然である」と判示し、続けて「公社職員が公社との間の労働契約において自らの自由意思に基づき、右の自由に対し合理的な制限を加え公社の指示に従うべき旨を約することが可能であることはいうまでもなく・・・・また前記のような内容の公社就業規則及び健康管理規程の規定に照らすと、要管理者が労働契約上負担としていると認められる前記精密検診の受診義務は・・・・要管理者が別途自ら選択した医師によって診療を受けることを制限するものでもないから、健康管理従事者の指示する精密検診の内容・方法に合理性ないし相当性が認められる以上、要管理者に右指示に従う義務があることを肯定したとしても、要管理者が本来個人として有している診療を受けることの自由及び医師選択の自由を侵害することにはならないというべきである。」と判示している。この判示からすれば、労働者の医師選択の自由及び受診の自由を制約しうるのは、労働者自身の自由意思に基づく労働契約による場合に限られ、しかもその制約は合理的かつ相当なものでなければならないのである。しかるに原判決は、「就業規則等にその定めがないとしても指定医の受診を指示することができ、片山はこれに応ずる義務があるものと解すべきである」と判示しているのであって、これは前記御庁の判例に違背するものであってひいては法令の解釈適用につき判決に影響を及ぼすことが明らかな違法が存すると言わざるをえない。

(四) なお原判決は片山に受診義務を認めるにあたり、「労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な措置であるから……指定医の受診を指示することができ(る)」と判示する。「労使間における信義則ないし公平の観念」の意味するところは明らかではない。仮に労働契約に附随する義務として信義則上認められる安全配慮義務に対応するものとして受診義務が認められる場合があるとしても、右受診義務が基本的人権としての医師選択の自由、受診の自由を制限するものである以上、受診義務の存否の判断にあたっては、本件受診の目的、内容の合理性の有無、受診を求めた経過、他にとりうる手段の検討及び実施の有無等具体的事情に基づいて判断されねばならない。ところで本件においては以下に詳述するように会社指定医への受診指示の経過、その後の対応等極めて不当かつ不誠実であり、本件各事情の下で受診義務を認めることは許されず、原判決には憲法、法令の解釈適用を誤った違法が存すると断ぜざるをえない。

二 本件受診の指示とその拒否について

1 本件受診の指示の不当性

前述のとおり、旧会社が片山に対し「就業規則の定めがないとしても指定医の受診を指示することができ」ると解したのは、憲法上の基本的自由権を侵害する誤りをおかしていることあきらかであるが、更に加えて本件受診の指示が、具体的にどのような事実経過の下に出され、継続されつづけたかをみたとき、その不当性は更に一層顕著なものであり、原判決の「片山において右指定医三名の人選に不服があるときは、会社側において指定医、診察について片山の希望をできるだけ容れると言明してい」たとする事実認定がいかに誤りであるか明白である。

即ち、上告人組合は旧会社に対し片山が昭和五五年六月一一日休職期間に入ってから同月二四日、今井医師の診断書を添え片山の疾病が業務に起因するものと認めそのような扱いを求めたところ、旧会社は同二六日付文書にて会社の指定医の診断を受け、会社が業務上傷病と認定した場合にそのような取扱いをする旨を回答し、片山に対し七月一六日付文書にて三名の会社指定医の診断を求め、同月三〇日付再度同様の通知をした。そしてこの間七月八日、片山の疾病につき団体交渉がもたれ、旧会社側の右指定医の受診の求めに対し、組合はそれは就業規則にも定めのないことであり、しかも労働者の医師選択の自由という基本的人権にかかわる問題であることを指摘し、会社の片山の疾病に関する疑問は主治医の今井医師にまず問いあわせる等すべきであることを求めたのである。

労働者の非災害性疾病である本件職業病問題特に本件頸肩腕障害等はその認定をめぐって労使間に鋭い争いがあり、ひいては医学界においてもその疾病の原因、治療等々につき鋭い見解の対立あることは公知な事実である。

それ故に職業病の原因追及とその改善、治療方法の確立につき労使双方が相たずさえ協力すべく、共通の認識の下その解決にむかうことが要請され、そのような労働協約が種々存在することも公知の事実である。

然るに本件は正しくその正反対であった。旧会社がとった措置は会社指定医の診断を求めるのみで、組合との団体交渉になじまない問題であると交渉を拒否したのである(乙第一二号証、旧会社回答書、昭五五・七・二九付)。これら旧会社の考え方を端的に述べたものとして、旧会社の労務担当者中田正紀の中労委での供述がある(乙第九八号証)。同人は「(職業病を認めるというのは)就業規則の問題で本人との問題であります・・・・団交でどうこうする問題じゃない」(同証二七七丁)、(指定医の問題をつめていく場合に組合と協議して決めていくということは考えてなかったか、の質問に対し)「組合と協議していくなんていうことは・・・・」(もしくは本人と相談しながら・・・・、の質問に対し)「全然考えません。」(本人や組合と相談せず勝手に指定してやれば足りるというふうに考えたわけですか、の質問に対し)「はい、勿論そうです。当然こういう重要な問題については会社のほうで、その指定医といっても何も会社でこことこことこの病院のどちらかを選んでその中で診て貰って下さいという形でいっているわけです。それで指定医という言葉を使っているわけですから」(同号証三五七~八丁)。

原判決が「もっとも片山において右指定医三名の人選に不服があるときは、その変更等について会社側と交渉する余地があるときは、会社側において指定医・診療について片山の希望をできるだけ容れると言明しているから」と事実認定し、旧会社の指定医の受診の指示に合理性があるかのように判断したのは、甚だしい事実誤認なのである。右誤認は七月一六日付旧会社通知書に「片山の希望をできるだけいれる」旨の記載があることをそのままひきうつしたものであるが、前記中田証言にあるとおり、旧会社は指定医等の人選につき片山の希望をいれる余地はひとかけらもなかったのである。

かような旧会社の受診の指示が合理性をもたないことは火をみるより明らかであって、右指示を許されるとした原審判断は事実誤認による理由不備の違法がある。

なお、原判決は旧会社が本件受診の指示を出すに至った一事由として、右中田が原田医師の新城整形外科を訪れ片山の疾病について尋ねたところ、同医師から「レントゲン撮影などをして診療した結果、片山の頸椎のワン曲度が正常に比べて減少しているほか、胸椎及び腰椎がワン曲しており、脊椎々間軟骨症と診断されたが、同疾病そのものは退行変性で、本人の素因から発症したものであって、業務に起因するものでないとの説明があ(った)」、からと認定している。これも甚だしい事実誤認である。前記中労委での中田証言(乙第九八号証)によれば、右中田が訪れた際の原田医師の説明は、「即座に、ああこれですか、これはもう私病ですと、こういう言い方です。」「私はどこへ行っても私病と答えます、と、こういう答えをいただいておりましたので、私はそれを聞いて安心してちょっと他のことを聞かないで、ああそうですかということで有り難うございますということで帰ってきたわけです。」(同証三〇八丁~三一〇丁)という程度であった。

更に同委員会の西川審査委員から、右の事情聴取の内容を詳細に聞かれ(同証三一五丁~三二九丁)右と同様に、脊椎々間軟骨症は私病です、ということを聞いた程度であることを認めているのである。

原判決の事実認定は、原審における原田医師の証言内容を当時中田証人が事情聴取のうえ聞いた説明内容ととり違えているのである(なお中田証人は原審で右原田医師の証言内容にそうかのような説明を受けた旨証言しているが、前記中労委での中田証言は、最も記憶が鮮明なうちのそれであって真実性が高く、原審証言は後日付加されたものであって信用性に乏しいこと明白である)。

原判決は、中田証人が原田医師に詳細な説明を求めてその内容に接し、それによって旧会社が片山の疾病に疑問をもった結果、指定医の診断を求めたことを正当としているが、事実は全く異なり右中田はそのような説明を受けたのでなく、ただ片山の脊椎々間軟骨症は「私病だ」という結論を聞いたにすぎない。しかも中労委での前記中田証言によれば、右原田医師の下に中田が訪ねたのは、「同年七月末、二九日か三〇日」(乙第九八号証三二〇丁~三二一丁)だというのであるから、右訪問は旧会社が片山に対し三名の指定医の受診を指示した後なのである(原審での中田証言は、訪問した日は忘れたとする)。原判決が、旧会社は原田医師から「片山の疾病が業務に起因するものでないとの説明があった」から、改めて専門医の診断を受けるように求めることができるとするのは、この時期前後をとり違える甚だしい事実誤認である。原田医師の説明があったから本件受診の指示は正当なものであるとするのは誤った事実認定の下になされた理由不備の違法がある。

2 本件受診を片山個人に義務づけることの不当性

原判決は、旧会社の受診の指示を正当とし、片山がこれに応ずる義務があるとする。旧会社と組合が職業病をめぐって労使交渉したことは、本件片山の事例が最初であることは当事者間に争いがない。しかしこれが最初であるから、労使にとって重大なテーマであり、激しい交渉になることは理の当然である。組合は、片山の疾病につき旧会社に対し団体交渉による解決を求めたのであるが、旧会社はそれに応ぜず、片山個人に対し会社指定医の診断を求めその結果によって会社が決定する旨の主張を続けたにすぎなかったことは前述のとおりである。

組合は、旧会社がコンベアー等にて引金付工具等を使用する女子労働者を主体とする生産会社であるから(甲第一九号証参照)頸肩腕障害等の問題がこれから将来発生し、労働者の健康保持からも、会社の安全配慮義務からも重要な問題を認識していたのである。然るに旧会社は、この職業病の認定につき就業規則にもない会社指定医の診断という方法を出してきたことから、組合がその方法は公正な診断がなされるかにつき疑問があり、又憲法上の基本的人権からも問題があるとして反対したことは、労働者の生命と健康に重大な関心をもつ組合として当然のことである。片山は組合員(それも旧会社内にての唯一の組合員であり分会長である)として、職業病の認定の方法として旧会社側の右やり方に反対し、旧会社と団体交渉のなかで話しあいで解決していくことをめざしたことはまさしく正当な組合行為であろう。しかるに原判決のごとく右片山に「労使の信義則上受診に応ずる義務」を課し、会社指定医の受診を強制することは右組合行為を否定する結果になり、労使対等の下団体交渉で労働条件を決定してゆくことを期待する労組法の精神を踏みにじる違法を強制するものといわざるを得ない。原審は、片山に受診を義務づけることで組合の団結権、交渉権を事実上否定する憲法違反を犯していること明白である。

又原判決は片山が「単に」就業規則にその定めがないことを理由として拒否することは許されない云々と認定しているが、同人は「単に」就業規則のみに固執したわけではないから、右認定は甚だしい誤りである。片山は組合員として、職業病の認定につき望ましいルールづくりを求め、会社側の一方的な指定医による御用医者による片ぱな判断のはいるおそれのあるやり方の撤回を求め(組合は会社のやり方が指定医制度の導入につながるとして反対しているのである――乙第一一号証組合団体交渉要求書)、まずは患者労働者の自ら選んだ主治医からの事情聴取を求めつづけたのである。決して単に就業規則にないからという単純なことではなく、本件労使間においては、職業病問題については全くなんのとり決めもなく、過去にも前例がなかったから、そもそもの第一歩からそれをつくりあげてゆかなければならないことを重視したのであり、それ故前述のとおり会社の一方的なやり方に反対し続けたのである。

しかるに原判決は、旧会社が今井医師の事情聴取する措置をとらなかった点に軽率さを認めながら、それは「多少の」程度問題とし許容する一方、組合及び片山が危惧する診断の公正さに疑問を生じしめる恐れのある会社指定医に反対し受診を拒否したことを義務違反として「許されない」とする全く片ぱな判断をしているのであって、この公平を欠く原判決は不正義そのものである。

本件受診義務を片山に課すことは、かように組合の団結権、交渉権を侵害し、労組法の基本精神に反し、著しく不公平なものであってその違法性は重大である。

3 退職扱いの不当性

(一) 原判決は、本件退職扱いが不当労働行為の対象となる行為性を有するか否かの点につき第一審の判断に付加して「乙第四、第一七号証によると、……本件退職取扱いをするにあたって(旧会社が)復職の見込みの有無について一応判断していることが認められ(る)」と認定して、更に「受診に関する指示を拒否しつづけたことは許されないところであり」「旧会社において片山の休職期間満了の時点で、同人の疾病が業務に起因するものとは認めず、復職の望みがないと判断したのはやむを得ない」とする。

まず原判決の旧会社の「復職の見込みの有無について一応判断している」との事実認定は明白な誤りである。被上告人は中労委審問以来原審に至るまで、旧会社の休職、退職規程に関する就業規則につき一貫して次のように主張してきた。即ち、旧会社の就業規則二一条では、休職期間満了時に復職しない限り、雇用契約は当然に終了するのであり、その時点で旧会社に片山を退職させるか否かの裁量的行為が留保されていたり、新たに退職させる意思表示が必要となるものではなく、退職の効果発生は単に時間の経過による必然の帰結にすぎないのである。また就業規則一九条五号の休職期間の延長は従来適用例はないが、その適用は「会社に対して例えば研究とか発明等で非常に貢献度が高かった人」「完治はしておるんですけれども、なんらかの都合で二、三日遅れるというような場合」(原審中田証言、その他同人供述調書)に限るとしている。就業規則の右の解釈が誤っているかどうかは別にして、旧会社は右就業規則をそのように解釈し、本件片山の場合にそのように適用したことは自ら自白していることなのである。旧会社は片山の休職期間満了時において当初決めた二ヶ月が経過するや完治の診断書が出されない以上、その余の判断するまでもなく自動的に退職扱いにしたのである。原審が旧会社は復職の見込みの有無について一応判断していることが認められると認定しているのは、旧会社の右自白を無視し、採証法則の適用を誤り、完全な事実誤認である。原審は乙第四号証の旧会社の答弁書の記載、乙第一七号証の退職扱いの通知の表面上の文言をとらえて、そのような認定をしたものと思われるが、右文言は旧会社の休職満了時における態度を認定する資料たり得ず証拠採用上の法則を誤る審理不尽の違法をなしていること明白である。そもそも本件は片山の疾病が業務に起因するものであれば本件休職及び退職扱いが全く許されないのであって、仮に旧会社のいうとおり片山の疾病が業務に起因しない場合といえども、旧会社が片山の疾病の将来のみとおし等につき調査し、休職期間の延長等を考慮すべきであり、旧会社がそのような措置にでず、最短の休職期間二ヶ月の満了をもって自然退職としたことが不当労働行為に該当するかが問われているのである。それ故旧会社がそのような判断をする必要ない、といっているに拘わらず、原判決が旧会社は復職の見込みの有無につき判断したと事実認定することは、明白な誤りである。

更に原判決が右誤った事実認定を前提にして、片山が受診拒否したから旧会社が復職の見込みなしと判断したことが正当であると判断していることも理解不能である。なぜなら受診拒否によって「片山の疾病が業務に起因すると認めるに足る資料がな(い)」と判断することはありえても、復職の見込みなしと判断することには連がらないからである。本件受診は片山の治療までも求めるものではないこと明白であるから、仮に受診したからといってその回復の見込みについてまで資料が得られるものではない。逆に旧会社は八月一日付今井医師の診断書の提出を受け、片山の疾病が「徐々に軽減しつつある」旨の資料を得ているのであるから、病状の回復、復職の見込みを更に調査するとすれば、なにはさておき、まず右今井医師に詳しい事情を聴取すべきである。旧会社がそのようなことをせず、片山の休職期間満了したことをもって自然退職扱いにしたことは明白である。然るに原審は、旧会社が片山の復職の見込みに一応判断したと事実誤認し、しかも復職の見込みとは本来無関係の受診の拒否と復職の見込みの判断とを結びつけるという二重の意味で判断を誤っているのである。

(二) 原判決は本件退職扱いが相当であって不当労働行為に該当しない理由として本件受診拒否に加え、「(片山が)他の従業員に比して欠勤、遅刻、早退が多く勤務成績が不良であったこと、旧会社においては就業規則上勤務軽減に関する定めはなく、また従前休職期間を延長した事例のないこと」等を総合勘案したとする。しかしながらこれら三点の事実は片山に対する退職扱いの相当性を根拠づける理由たり得ないことは明白である。まず第一の勤務成績についてであるが、原判決においてもそれは、「片山は旧会社の川崎工場閉鎖計画発表を契機として組織されたサイバネット工業分会の組合員であって・・・・熱心な組合活動を行い、そのための欠勤、早退が多く、旧会社としては不快の念をもっていたであろうことが推認され」るとしている。

かように勤務成績不良とは片山が唯一の組合員として地労委等への出頭など自分ですべてをやらねばならなかったやむ得ざる理由に基づくものである。

よってこの点について原判決の如く勤務成績が不良であると否定的に評価していることは片山の組合活動を否定することに連がり、且つ旧会社の組合活動による不快の念を正当化し、不当労働行為意思認めるものであって、労組法第七条の精神から許されないこと明白である。原審が一方で旧会社の不快の念を推認しながら、他方片山の組合活動による勤務不良を本件退職扱いの相当性の一事由として認定したことは理由齟齬、審理不尽の著しい違法があるといわざるを得ない。

また軽減勤務につき就業規則に定めがないとの点についても、会社としてはいつでも自らの発意で就業規則の改正をすることができるものであり、あるいは労使交渉で協約化することも可能であり(そのような事例が多々あること公知の事実である。)、就業規則にないから軽減勤務は認められないとすることは、就業規則をあたかも第三者が立法化した規則かの如くとらえる誤った認定であり、本件退職扱いを正当化する理由たり得ないものである(なお一言すれば、原判決は会社指定医の受診義務は就業規則に定めがなくとも認定できるとし、軽減勤務については就業規則に定めがないから認められないとして、一方では就業規則を軽視し、他方では重大視するという、公平を欠く認定をしている。)

休職期間の延長事例がないとの第三の点についても、そもそも旧会社が休職規程を適用したのは片山の場合がはじめてであることを認めているのだから、その延長問題もはじめての事例になることは当然であり、本件において従前休職期間の延長がなかったから、片山の場合に認められないとすることは甚だしい無意味な理由づけといわざるを得ない。以上三点は、片山の休職扱いを正当化する理由には全くなり得ないものであるのに、原審がそれらを総合勘案して本件退職扱いが相当であると判断したのは、審理不尽、理由不備の違法があること明白である。

第二 団体交渉拒否による不当労働行為

原審は、片山に対する退職扱いが不当労働行為に該当せず正当である以上、団体交渉する利益はないとして旧会社の団交拒否を正当とする。然しこれまで述べてきたように片山に対する退職扱いは不当なものであり、本件につき、ただ一回の短時間の団体交渉をもったのみで、その後の組合の団交要求を拒否していること明白であるから、右が不当労働行為に該当することは多言を要しない。

以上

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