大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和63年(行ツ)81号 判決 1988年9月08日

宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井一二六五の五番地

上告人

伊東イエノ

宮崎県延岡市東本小路一一二番地の一

被上告人

延岡税務署長

金井達也

右指定代理人

牧野広司

同西臼杵群高千穂町大字三田井一三番地

被上告人

高千穂町長

甲斐畩常

右指定代理人

藤野新

河内達雄

右当事者間の福岡高等裁判所宮崎支部(行ソ)第一号課税処分取消請求再審事件について、同裁判所が昭和六三年三月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

記録に照らすと、本件再審の訴えを排斥した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田禮二郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

(昭和六三年(行ツ)第八一号 上告人 伊藤イエノ)

上告人の上告理由

被上告人延岡税務署長は、昭和五五年度分の所得税は、上告人の確定申告によるものと主張されていますが否認します。

上告人は昭和五三年五月二六日に主人故伊藤豊が隣町の町立病院で医療ミスにより死亡しました為老人母子家庭である遺族の生活更正の為の譲り渡し資金でした。

申告当時延岡の税務署で係の方に

「住宅控除はありますか。」

とお尋ねしましたところそれに対して

「控除はある、柱一本立つていればよい。」

と言われましたが、その意味を理解できないまま、高額な課税を強要負担させられました。

本件は、紛争前の利益が、不当な意志表示の教示により形成された被上告人側にあり、行政の性格自体が、人民に対する侵害的公権力の作用によるものであります。民法第一〇〇条に相当します。

徴税行政の作用は、国民の政治に対する信詫に基づくものであつて、行政の掌にあたる公務員は、全体の奉仕者として誠実にその事務を処理する義務を負うものとする。憲法第一五条に違反します。

延滞税及び利子税の納付催告についても、上告人が延納の届け出をしたと主張されていますが、上告人は否記します。

上告人はこの件につきましては、内容証明証で前延岡税務署長河野正道氏に昭和五九年九月八日に異議の申し立を提出して、前置主義を経ています。

そのことで、延岡税務署長代理人松本氏が上告人宅に出張され、五五年度の非課税を確認・認容されています。

原審判決

一 延岡税務署長の第三証拠に於て、甲第一号証の控除<1>事業主控除二二〇万円、<2>住宅控除三五〇万円、<3>借入金返済控除(母子借入金一二〇万円、信用組合借入金四〇〇万円)を認められています。従つて上告人には課税対象はありません。第二五条生存権の成立です。

被上告人延岡税務署長代理人の第四号証は虚偽の陳述公文書作成による不当な延滞税です。

第四二〇条五号・七号に相当します。

二 被上告人高千穂町長は、第三、証拠に於て、甲一号証の各控除を認められています。

被上告人高千穂町長は昭和六〇年一月二八日の答弁書で

「上告人の五五年度分の町県民税は非課税で、課税していない、国民健康保険税は二万五一一〇円賦課決定した。」

と主張されました。従つて上告人には五五年度分は、課税対象はありませ。

被上告人高千穂町長が上告人に強要徴収された町・県民税の四五万五七四〇円の領収書は、課税年号が不明になつています。上告人の申告書もありません。

第三号証国民健康保険税二六万円は二重課税です。上告人の国民健康保険税は、五五年度分二万五一一〇円と、五六年度分九万七五〇〇円の納付済み領収書があります。提出済みの付帯書類(領収書)の通りです。

昭和六二年行(ソ)第一号 課税処分取消請求控訴再審事件

判決

宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井一二六五の五番地

再審原告(控訴人) 伊藤イエノ

延岡市東本小路一一二番地の一

再審被告(被控訴人)延岡税務署長

溝上諭

右、指定代理人 下田稔

松下文俊

土井健

中村茂隆

溝口透

宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井一三番地

再審被告(被控訴人)高千穂町長

甲斐畩常

右、指定代理人 藤野新

佐藤戍

右、当事者間の当庁昭和六〇年行(コ)第二号課税処分取消請求控訴事件(第一審宮崎地方裁判所昭和五九年行(ウ)第四号)につき昭和六〇年八月九日言い渡しの確定判決(以下「原判決」という)に対し、再審原告から、再審を求める申立があつたので次のとおり判決する。

主文

本件再審請求を棄却する。

請求費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告は別紙再審訴状のとおり陳述し、再審被告らはいずれも「本件再審の訴えを却下する。再審費用は、再審原告の負担とする。」との判決を求め、「本件再審原告の不服事由は再審事由に該らない」と述べた。

理由

別紙再審訴状によれば、再審原告の請求趣旨は「(一)原判決及び、第一審判決を取消す。(二)再審被告、延岡税務署長が再審原告の昭和五五年分の所得税、昭和五九年八月二〇日付の延滞金及び利子税について、各賦課処分を取り消す。(三)再審被告、高千穂町長が、再審原告の昭和五六年分の町県民税及び国民健康保険税についてした各賦課処分を取り消す。」旨の裁判を求めるものと善解し、得る。

再審原告は、原判決には、民訴法四二〇次視一項五号、七号の事由があると主張する。しかしながら、記録によれば第一審判決は「(一)再審被告延岡税務署長に対する訴につき、昭和五五年分所得税については再審原告の確定申告に基づき確定したこと、その余の延滞金及び利子税の納付催告についても再審原告が延納の届出をし、その届出期間経過後に至つて納付したことによつて自動的に生じたことは、当事者間に争いがないので、いずれも取り消しの対象たる行政処分を欠くことが明らかであり、(二)再審被告高千穂町長に対する訴についても、町県民税については、再審原告の昭和五五年度の所得税確定申告(当事者間に争いがない)に基づき自動的に算出確定されたものの納付通知を発したもの、国民保険税については、成立に争いのない甲第三号証及び弁論の全趣旨によつて前記確定申告による所得金額を算出基礎として地方税法七〇三条の四によつて算出して納付通知をしたものであつて、いずれも取り消しの対象たる行政処分を欠くことが明らかである。」とし、それぞれ訴を却下し、原判決は、右第一審判決において当事者間に争いがないとされた延滞税及び利子税の納付催告のなされた経緯に関する事実を成立に争いのない甲第四号証の一及び弁論の全趣旨によつて認定し、第一審判決挙示の「甲第三号証」を「甲第三号証の一」と改めたほか第一審判決理由と同一の理由で第一審判決を是認して再審原告の控訴を棄却したものであつて、これによれば、原判決(その引用する第一審判決を含む)は、当事者間に争いのない事実のほかは、甲第三号証の一、甲第四号証を事実認定の証拠に挙げているのみで、他の証拠を判断の資料としてはいないところ、再審原告の主張は、右、原判決が判断の基礎とした証拠につき、民訴法四二〇条一項第七号の事由があるとの主張ではないし、又、同第五号の主張とみられるところも、結局のところは、当事者間に争いのないとされた確定申告の内容に関し延岡税務署員の教示についての不服をいうものと解されるが、再審原告が右、確定申告をした事実を明らかに争わなかつたことについて同号所定の事由があることをいうものではない。

よつて、再審原告主張の再審事由はこれを認めることができず、本件再審請求は、理由がないので、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

以上のとおりです。上告人は生存権を確保する為甲一号証の控除により課税の取り消しを目的としました。被上告人も甲一号証を認められていますので上告人には課税対象はありません。

再審に於ては第一回の口頭弁論が六三年二月二二日に開かれました。相手側野答弁書に対して上告人は、「次回までに準備書面に抗弁を記載して提出します。」と延べ六三年三月一八日に証拠の申出書を提出しましたがこれに対しては証拠調べのないまま上告人の訴を取り上げられず六三年三月三〇日の判決で却下されました。第一審の原判決に於ても証拠の申出書を提出しましたが、目的の甲第一号証は取り上げてもらえませんでした。被上告人の甲第四号証と三号証のみを認定の資料とされるのは納得がいきません。これは違憲判決です。本判決理由五枚目の二行(三)再審被告、高千穂町長が再審原告の昭和五六年分の町・県民税及び国民健康保険税について、した各賦課処分を取り消す。」のところは五六年度ではなく、五五年度の間違いです。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例