最高裁判所第一小法廷 昭和23(れ)1280 判決
主 文
本件各上告を棄却する。
理 由
被告人A弁護人吉富重夫上告趣意について。
しかし、刑の量定並びに刑の執行猶予の言渡は、事実裁判所たる原審の自由裁量
に属する事項であるから、所論は、上告適法の理由とならない。
被告人B、同Cの弁護人吉富重夫の各上告趣意について。
刑法第二四〇条前段所定の強盗傷人の既遂罪は、強盗の身分を有する者が強盗の
実行中又はその機会に傷害の結果を発生せしめるを以て直ちに成立するものである。
そしてその強盗たる身分は、強盗に着手するか又はいわゆる準備強盗と認むべき行
為を為すによりこれを取得するもので、財物を得ると否とは、「窃盗財物を得てそ
の取還を拒ぐ」場合の外その身分を取得するのに毫も関係のないものであるから、
原判決が所論各被告人の判示所為に対し同法条前段のみを適用して同法第二四三条
第二四〇条前段を適用しなかつたのは正当である。また、刑の執行猶予の言渡は、
三年以下の懲役若しくは禁錮又は五千円以下の罰金を言渡す場合でなければこれを
為し得ないものであり、なお、少年に対する保護処分を為すか否かは、第一審又は
控訴審の裁判所の自由裁量に属する事柄であるから、原審が各被告人の本件所為に
対し酌量減軽のみを為し更らに刑の執行猶予の言渡を為さず又は被告人を少年裁判
所に送致する決定をしなかつたからと言つて原審の処置を目して違法であるといえ
ない。従つてこの点に対する所論は、原判決の違法を攻撃すべき上告適法の理由と
することができない。論旨はいずれも採るを得ない。
被告人C弁護人千葉清雄の上告趣意第一点について。
しかし、原判決は被告人等か共謀の上通行人に暴行脅迫を加えて金品を奪取しよ
うと企ててこれが実行をした所論原判示第一の事実を認定する証拠として、被告人
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並びに原審共同被告人D及び共同被告人Bの原審公判廷における各自の関係部分に
ついて為した判示同趣旨(傷害の部位程度を除く)の供述と原審第二回公判調書中
の証人Eの供述記載及び医師F作成の診断書の記載とを挙示してこれを認定する旨
説明しており、所論のごとく単に「エンブリ」を打つて見たかつた旨の被告人の供
述のみを以て直ちに強盗の犯意あつた旨を認定してはいないのである。そして原審
公判調書によれば被告人並びに右共同被告人等はいずれも原判示の公訴事実を自認
していることが明かであり、その他原判示の事実はその挙示の証拠によりこれを肯
認するに足るから所論「エンブリ」の意義が明瞭でなくとも原判決には所論の違法
あるとはいえない。論旨はその理由がない。
同第二点について。
原判決は、その判決書の証拠説明の箇所における文字の挿入削除の字数の記載が
頗る不正確であることは、正に、所論のとおりである。しかし旧刑訴第七二条に「
官吏書類を作るには挿入削除等を為したるときはこれに認印しその字数を記載すべ
し云々」とあるは訓示的規定であつてこれに反する書類又は記載等を当然無効とす
る趣旨ではない。従つて現実に為された挿入削除の字数如何は裁判官が各場合にお
いて適正に決すべき事実問題である。そして当裁判所が原判決書を検するに原判決
書中所論指摘の箇所に「挿入七十二字」と記載し、挿入文字として「第六の事実は
被告人Dに対する検事の聴取書中判示に符号する供述の記載及び判示に符合する日
本刀二振(証第五号第十号)の存在によつて之を認める。」と明瞭に記載せられこ
れに認印を施されていることが認められる。されば右挿入七十二字とあるは所論の
ごとく括孤及び終止符を文字として計算したものであるか又は誤つて字数を記載し
たものであるかは明かでないけれども挿入された文字の表現する意思表示の意味は
極めて明瞭であつて所論のごとく表現せらるべき意思が未だ表現せられていない未
完成のものだとはいえない。されば右挿入文字の字数の記載が不正確であると否と
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にかかわらず証拠説明の趣旨は明白であつて疑を容れる余地を存しない。それ故所
論は既にこの点でその理由がないものといわねばならぬ。しかのみならず上告人た
る本被告人の犯罪事実は判示第一の事実であつて、右挿入の文字はそれ自体で明ら
かなように判示第六の事実に関するものであるから、被告人の犯罪事実の証拠説明
には何等の関係がないこと明白であり、従つて右の瑕疵は被告人に対する判決の部
分に影響を及ぼさないことも明白である。されば本論旨はいずれの点からしても採
るを得ない。
よつて旧刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
検察官 宮本増蔵関与
昭和二四年一月二七日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 斎 藤 悠 輔
裁判官 沢 田 竹 治 郎
裁判官 岩 松 三 郎
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