最高裁判所第一小法廷 昭和29(も)3 決定
主 文
本件請求を棄却する。
理 由
請求代理人の請求の趣旨および請求の原因は別紙のとおりであるが、その要旨は、
請求人は昭和二六年二月四日昭和二五年政令第三二五号違反事件被疑者として逮捕
され、同月五日勾留状の執行を受け、同月二四日右政令違反被告事件につき前橋地
方裁判所に起訴され、同年四月一九日保釈されたが、昭和二七年四月一五日保釈取
消決定により収監され、昭和二八年七月二四日勾留執行停止決定により釈放される
まで勾留された。そして請求人に対する右被告事件につき最高裁判所大法廷は前記
政令が行為当時には有効であつたこと、そして平和条約発効によりそれが無効にな
つたことの二つの事態を刑訴法の規定に従つて判断した結果、右は同法の「刑の廃
止」にあたるものとして昭和二九年五月二六日免訴を言渡し、その判決は確定した。
しかし、前記政令第三二五号は本件の行為当時有効に存在していた憲法に違反して
いたのであるから、同令違反行為はその行為当時においても当然に無罪であつたの
であつて、それが無罪とされなかつたのは、その行為当時における「占領状態の存
在」「占領の必要」によつて憲法の解釈適用が制約されていたことのみに由るので
ある。従つて右の「必要」がなくなれば、行為当時の本来の解釈に従つて本来無罪
はあくまで無罪と解すべきが当然である。従つて前記被告事件における最高裁判所
の免訴の裁判は、形式上は免訴であつても、その裁判の理由において明白に本来無
罪であること即ち冤罪者であることの判断が示されており、「無罪的免訴」ともい
うべく憲法四〇条、刑事補償法一条の無罪の裁判にあたるものである。かりに本件
が同法一条の場合にあたらないとしても、前記被告事件については、本来無罪の裁
判がなさるべきであつたのに、「占領状態の継続」という事実があつたために無罪
の裁判がなされずに免訴の裁判がなされたのであつて(平和条約発効という事実が
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免訴の裁判をすべき事由であると解すべきではない)、同法二五条にいう免訴の裁
判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な
事由があるときにあたるものというべきである。よつて請求人は前記抑留拘禁によ
る補償を請求するものである。なお、平和条約発効の日たる昭和二七年四月二八日
以後の勾留は前記政令が全面的に失効した後で、勾留の事由なきものであるから、
少くともその不当違法な勾留による補償はなされねばならない。というにある。
しかし、憲法四〇条は、何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたと
きは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができると規定し、
また、刑事補償法一条が刑事補償を受くべき場合を無罪の裁判を受けた場合に限定
したものであることは、同条と同法二五条とを対比することによつて明らかである。
しかるに、所論大法廷判決は、請求人に対し六名の裁判官は、昭和二五年政令三二
五号は平和条約発効と同時に当然失効し、その後に右政令の効力を維持することは
憲法上許されないとの理由により、また、五名の裁判官は、右政令は、平和条約発
効後においては、本件に適用されている昭和二五年六月二六日附及び同年七月一八
日附連合国最高司令官の指令の内容が憲法二一条に違反するから、右指令を適用す
るかぎりにおいて、平和条約発効と共に失効するとの理由により、以上一一名の裁
判官により本件を犯罪後の法令により刑が廃止された場合に当るとして免訴を言渡
したのであつて、これをもつて所論のごとく本来の無罪的な免訴の裁判をしたもの
でないことは判文上明白である。従つて憲法四〇条、刑事補償法一条による補償の
請求はその前提を欠きこれを容認できない。また本件をもつて同法二五条にあたる
場合であるとの所論も前記最高裁判所の免訴の裁判理由に照し首肯するを得ず、そ
の他本件において、免訴の裁判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受くべ
きものと認められる充分な事由のあることを認めることはできない。なお、少くと
も平和条約発効の日以後の勾留は不当違法な勾留であるから補償しなければならな
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いとの所論については、そのような勾留による補償については、刑事補償法の規定
するところではなく、その対象とならないものというべきである。
よつて本件請求は理由なきものと認め同法一六条後段により裁判官全員一致の意
見で主文のとおり決定する。
昭和三五年六月二三日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 斎 藤 悠 輔
裁判官 入 江 俊 郎
裁判官 下 飯 坂 潤 夫
裁判官 高 木 常 七
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