大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和30(オ)961 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告理由第一点について。

民法一一〇条の規定は、代理人が、その有する代理権限の範囲を越えて、本人を

代理してある行為をしたことを前提として適用さるべきものと解するを相当とする。

すなわち、本条の適用あるがためには、代理権限の踰越があることを要件とし、代

理権限の踰越があるためには、当然そこに基本として何らかの代理権が存在するこ

とを前提要件とする。本人を代理してある行為をした者が、その行為の当時におい

て、全然代理権を有しない場合は、純然たる無権代理であつて、代理権限を越える

という問題を理論上生ずる余地がなく、したがつて本条を適用する余地もないとい

わなければならぬ。

原判決は、上告人が訴外Dの代理人と称する訴外Eから本件土地家屋を買受けた

昭和二二年六月一七日当時においては、訴外Eは何等の事項についても訴外Dを代

理する権限を有しなかつた事実を適法に認定している。それゆえ、原判決が民法一

一〇条の表見代理に関する上告人の主張を採用しなかつたのは正当である。

所論は、原判決の認定によれば、(一)右売買契約の締結後取引完了前に、前記

Eは所論の事項につき代理権が与えられたのであるから、また(二)前記Eは、訴

外Dと訴外F間の売買について、買主D側に立つて仲介をしたのであるから(仲介

は実質的には代理関係と殆んど選ぶところがないから)、さかのぼつて本件売買契

約についても民法一一〇条を類推適用すべきであると主張する。しかし、前記Eが

訴外Dから所論の事項につき代理権を与えられた後に、その代理権限を越えてなし

た代理行為については、第三者たる上告人がその権限ありと信ずべき正当の理由を

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有したときは、表見代理に関する民法一一〇条の適用を主張することができるとは

いえよう。だが、基本となるべき何らの代理権もなく(所論売買の仲介は代理関係

とは認められない)、純然たる無権代理の状態において締結された本件売買契約そ

のものにつき、民法一一〇条を類推適用するを妥当とする実質的理由を認めること

はできない。それゆえ、論旨はとることを得ない。

同第二点について。

所論は、上告人において、本件売買契約締結の際、前記Eが訴外Dを代理する権

限ありと信ずるにつき正当の理由がない、とした原審の判断の違法を主張する。し

かし、すでに第一点において述べたところによつて、本件売買契約につき民法一一

〇条の適用がないことは明らかである。それゆえ、、原判決としてはさらに進んで

上告人が前記Eに代理権ありと信ずるにつき正当の理由がない旨を特に判示する必

要はないわけである。この点に関する原判示は、民法一一〇条の表見代理の主張を

排斥する理由としては、いわば蛇足を添えたに過ぎないものである。この点に関し

仮に所論の違法があるとしても、その違法は原判決に影響を及ぼさないから、適法

な上告理由とは認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと

おり判決する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 真 野 毅

裁判官 斎 藤 悠 輔

裁判官 入 江 俊 郎

裁判官 下 飯 坂 潤 夫

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