大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和36(オ)1283 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人鶴丸富男の上告理由第一点一について。

所論は、被上告人が昭和三二年二月二三日に改印届をするに至つた経過に関する

原判決(その引用する第一審判決をふくむ、以下同じ)の判示に理由不備または理

由そご等の違法があると主張する。しかし、本件登記の原因関係の成立に関係のあ

る昭和三二年二月二五日の改印届は、訴外Dにおいて訴外Eを被上告人の身代りと

して同行の上なしたものであることが、原判決挙示の証拠で認められる以上、それ

より以前の改印届の経過は本件登記の効力に直接関係のあることではないのである

から、この点について所論のような違法があつても、なんら判決に影響をおよぼす

ものではない。所論は、ひつきよう判決に影響をおよぼさない事項についての違法

を主張するか、または原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに

帰するものであつて、採用できない。なお、論旨(五)引用の判例は事案を異にし、

本件に適切でない。

同第一点二について。

所論は、原判決が上告人主張の追認の事実を否定するに当り、弁論の全趣旨こと

に原告訴訟代理人が昭和三二年三月二〇日本訴の訴状を第一審裁判所に提出してい

る事実をしんしやくしいる点に、理由不備または理由そごの違法があると非難する。

しかし、弁論の全趣旨が何をさすかを具体的に判文に説示する必要はなく、本件口

頭弁論全体の経過および内容からうかがえる被上告人と訴外Dとの対立反目の関係

のごときは、弁論の全趣旨としてしんしやくできるところである。(所論引用の判

例は事案を異にし、本件に適切でない。)なお、訴状が第一審裁判所に提出された

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こと自体を、弁論の全趣旨の内容ということは、措辞妥当を欠くきらいがあるけれ

ども、右事実も裁判所に顕著な事実として事実認定の資料に供することは、なんら

違法でない。それ故、原判決には所論の違法はなく、所論は、ひつきよう独自の見

解に立つて原判決を非難するに帰し、採るをえない。

同第二点一(一)について。

所論は、被上告人と訴外Dとの関係が全く疏隔するに至つたとの原判示には、採

証法則等の違反があると主張するが、右認定はその挙示する証拠関係、事実関係か

ら肯認できる。所論は、ひつきよう原審の裁量に属する証拠の取捨判断、事実の認

定を非難するに帰し、採るをえない。

同点一(二)について。

所論は、原判決が「Dは原告の印顆をほしいままに持出し」と判示しながら、そ

の日時および保管場所を認定判示していないことは、理由不備ないし理由そご等の

違法があると主張する。しかし、右持出しの事実は原判決挙示の証拠で昭和三二年

二月頃以前の事実であることが認められるのであつて、その日時および保管場所ま

でを認定判示する必要はない。原判決には所論の違法はなく、所論は、ひつきよう

独自の見解に立つて、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに

帰し、採るをえない。

同点二(一)ないし(四)について。

所論は、いずれも所論の各点についての採証法則違背、理由不備、審理不尽の違

法を主張するものであるが、所論各判示事実は、いずれもその挙示する証拠関係、

事実関係から首肯できるところである。原判決には所論の違法はなく、所論は、す

べてひつきよう、原審の認定にそわない事実を前提とし、あるいは原審と異る証拠

の評価の立場に立つて、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難する

に帰し、採るをえない。

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同第三点一(一)について。

所論は、代理人が契約をする場合に代理人であることを表示しなければならない

法令上の根拠はないと主張するが、原判決は訴外Dは被上告人本人である旨を僣称

して本件取引をしたと認定判示しているのであるから、右Dが代理行為をしたこと

を前提とする所論は、的外れの主張であつて、採るをえない。

同点一(二)について。

所論は、被上告人と訴外Dとの身分関係、同居関係、経済関係などからして、右

Dが特に代理人であることを明示しなくとも、相手方(上告人)においてそのこと

を了知できたのであるから、民法一一〇条、一一二条の適用ありと解するのが相当

であると主張する。しかし、前段で説示したとおり、右Dが代理行為として本件取

引をしたものでないことは原判決の正当に確定しているところであるから、右民法

の規定の適用を云為する必要はない。所論は、ひつきよう原判決に影響をおよぼさ

ない事項について法令違背を主張するものであつて、採るをえない。

同点二(一)および(二)について。

所論は、上告会社代表者において訴外Dを被上告人自身と誤信したのは重大な過

失に基づくものであり、また右Dが被上告人の代理人として取引したとしても、同

人に代理権があつたと信ずべき正当の理由はなかつた旨の原審の判断を非難するも

のであるが、既に説示したとおり、右Dは自らが被上告人本人である旨を僣称して

本件取引をしたものであることは原判決の適法に確定しているところであるから、

右取引が被上告人に効力をおよぼすいわれはなく、所論は原判決の蛇足の説示に対

する攻撃であつて、採るをえない。

なお、上告理由の補充申立書は期間経過後の提出にかかるものであるから、これ

に対する判断を与える必要はない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと

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おり判決する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 斎 藤 朔 郎

裁判官 入 江 俊 郎

裁判官 長 部 謹 吾

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