大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和38(あ)2992 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人鍛冶良作、同鍛冶良道、同石川滋の上告趣意第一点は憲法三七条一項違反

および判例違反を主張するのであるが、本件に関する第一審裁判所における審理経

過は原判決の説示するとおりであり、そして、共同被告人として起訴された共犯者

らと被告人との弁論が分離された結果、裁判官が右共犯者らの公判審理により被告

人に対する本件事案の内容に関し知識をえたからとて、そのこと自体は裁判官を被

告人に対する本件の審判につき職務の執行から除斥するものでないことはもちろん

裁判官が事前に事件の知識を有した一事をもつて不公平な裁判をする虞があるもの

と速断することはできず、したがつてその一事をもつて忌避の理由があるものとす

ることもできない。そして、判決裁判所の裁判官がその職務の執行から除斥されず、

かつ忌避の理由もない本件のごとき場合には、その裁判官のした審理判決を目して

憲法三七条一項にいわゆる公平な裁判所の裁判でないということのできないことは、

当裁判所大法廷判決の趣旨とするところである(昭和二四年(れ)第一〇四号同二

五年四月一二日言渡、刑集四巻五三五頁)。しかして、この理は裁判官が共犯者ら

に有罪判決の言渡をした後において、被告人に対する本件の審理判決をした場合に

おいても異るわけがない。それ故、違憲の主張は理由がない。なお、所論引用の高

松高等裁判所の判例は右大法廷判決の趣旨によつて変更されたものと解すべきであ

るから、判例違反の主張は上告適法の理由にならない。

同第二点は憲法三八条二項および刑訴三一九条一項違反を主張するが、所論被告

人の供述調書の任意性をを疑うべき資料は記録上発見できないから、所論は前提を

欠き適法な上告理由に当らない。

同第三点は事実誤認の主張であり、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(原判

- 1 -

決およびその支持する第一審判決の認定する事実関係の下において、業務上横領罪

の成立を是認した原判示は正当である。)

同第四点は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であり、同第五点は量刑不当の主

張であつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

よつて、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

昭和三九年八月一三日

最高裁判所第一小法廷

裁判官 入 江 俊 郎

裁判官 長 部 謹 吾

裁判官 松 田 二 郎

裁判長裁判官 斎藤朔郎は死亡につき署名押印することができない。

裁判官 入 江 俊 郎

- 2 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!