大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和38(オ)679 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人衛藤隅三の上告理由第一点について。

原判決が家賃の支払いとその受取証書の交付とは同時履行の関係に立つと解すべ

きであると判示したのは、家賃の弁済とその弁済の受取証書の交替とが同時履行の

関係にあると解すべきである旨を判示したものと解され、右判示は正当である(大

審昭和一六年三月一日民三判決、民集二〇巻一六三頁参照)。しかし、家屋の賃借

人が受取証書の交付を受けないで異議なく家賃の支払いをした場合に、先に支払つ

た家賃について受取証書の交付のないことを理由として、その後の家賃の支払いを

拒絶ずることはできないのであり、その旨の原判示は正当である。所論は、原判決

の引用する第一審判決が「その后異議なく家賃を支払つた」と認定したのは誤認で

あるというが、右判決がこのような認定をした形跡は認められないから、原判決を

正解しないものというほかない。所論は、原判決を正解せず、これと異なつた見解

を前提として原判決を攻撃するにすぎないもので、採用できない。

同第二点について。

原判決の引用する第一審判決は、被告(上告人)の全立証によつても、統制額が

いくらか判然しない旨判示していること判文上明らかである。所論の判断遺脱の主

張は、原判決を正解しないか、原審の専権に属する証拠の取捨判断ないし事実の認

定を非難するにすぎない。また、原判決は、かりに被告の支払つた賃料が統制額を

こえるものであつたとしても、被告が統制額違反の賃料であることを十分了知しな

がら、支払つたものであるから、右の支払いは民法七〇五条にいわゆる非債弁済に

該当し、被告はその返還を求めることができない筋合であると判示している。した

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がつて、統制賃料額超過支払分の返還に関する所論は、原判示に副わない事実を前

提として原判決を攻撃するか、原審の専権に属する証拠の取捨判断ないし事実の認

定を非難するに帰する。原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第三点について。

原判決は、本件賃貸借契約解除の意思表示があるまでに、控訴人(上告人)から

被控訴人(被上告人)に対して所論の修繕費の償還を請求し、賃料の支払を拒絶し

たことが確認できないとしたうえ、被控訴人が本件延滞賃料の催告および契約解除

の意思表示をした時に、修繕費支出に基づく同時履行の抗弁権を有する故に賃料の

未払について控訴人に遅滞の責がなかつたものとなすことはできないとした。この

判示は正当であり、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第四点について。

本件建物の家賃を合意で値上げするさいに、所論の修繕費について考慮されたい

と控訴人が申し出たからといつて、必ずしも所論相殺の意思表示があつたものと認

めなければならないものではなく、原判決が延滞賃料と修繕費とを相殺に供する旨

の意思表示を控訴人がしたことは認められないと判断したのは、証拠関係に照して

相当であり、原判決に所論の違法はない。所論は、原審の専権に属する証拠の取捨

判断ないし事実の認定を非難するにすぎないから、採用できない。

同第五点について。

所論の返還請求権の発生原因および留置権の成立要件について明確な主張がなさ

れていないから、控訴人の留置権の主張を採用できないと原審が判示したことは正

当であり、論旨は理由がない。

同第六点について。

原判決は、所論物置小屋は上告人の所有、その敷地は被上告人の所有であるとこ

ろ、右敷地の占有権限についてなんら主張立証がないから、上告人は被上告人に対

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して右小屋を収去し、その敷地を明け渡す義務がある旨判示しているのであつて、

所論のような保管義務について判示してはいない。所論は、原判決を正解しないで

これを攻撃するものであり、採用できない。

同第七点について。

原判決は、上告人において被上告人があらかじめ本件延滞賃料の受領を拒絶して

いたことについて主張立証がなく、被上告人から契約解除の書面が到達した昭和三

三年八月二九日までに上告人が右賃料の現実の提供をしなかつたから、上告人の弁

済提供の効果があるとの主張は採用できないと判示した。この判示は正当である。

また、本件契約解除権の行使が信義誠実の原則に違反する事実があることは認めら

れない旨の原審の判断は、証拠関係に照して相当である。原判決には所論の違法が

なく、論旨は理由がない。

同第八点について。

被上告人による本件契約の解除が信義誠実の原則に違反すると判断しうる基礎事

実のあることは認められないとする原判決の判断は、証拠関係に照して相当である。

所論は、原判示に副わない事実を前提として原判決を攻撃するに帰し、採用できな

い。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと

おり判決する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 横 田 喜 三 郎

裁判官 入 江 俊 郎

裁判官 長 部 謹 吾

裁判官 松 田 二 郎

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