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最高裁判所第一小法廷 昭和38(オ)960 判決

主 文

本件上告は、昭和三八年一一月五日取下げにより終了したものである。

中間の争いに関し生じた訴訟費用は、上告人らの負担とする。

事 実

上告人訴訟代理人らは、本件上告事件はなお係属中であることを確認する旨の判

決を求め、その理由として、 上告人A1、同A2訴訟代理人は、つぎのように述

べた。

弁護士Dは、昭和三八年一一月五日上告人A1同A2両名の訴訟代理人名義で本

件上告事件の上告取下書を最高裁判所に提出した。しかしながら、右上告人らは、

右Dに本件の訴訟委任をしていないから、右上告取下は無効である。

なお、右上告人らが弁護士Eに本件上告事件の訴訟委任をしたことは認めるが、

右訴訟委任につき、上告取下および復代理人選任の特別授権をしたこと、および、

EがDに対し本件上告事件につき復委任をしたことは否認する。

上告人A3訴訟代理人は、つぎのように述べた。

弁護士Dは、昭和三八年一一月五日上告人A3の訴訟代理人として、本件上告事

件の上告取下書を最高裁判所に提出した。しかしながら、右上告取下は無効である。

すなわち、被上告人B株式会社は、昭和三八年一〇月三一日東京地方裁判所昭和三

八年(ヨ)第五四七四号不動産仮処分命令申請事件において、上告人A3が現に居

住および営業用に使用中であつて、本件上告事件の係争物件である東京都中央区a

b丁目c番d宅地二四坪二合九勺および同地上家屋番号同町e番f木造瓦葺平家建

居宅兼店舗一棟建坪二〇坪五合ならびに同番g宅地一四坪三合六勺および同地上家

屋番号同町e番h木造瓦葺二階建居宅一棟建坪一〇坪六合六勺二階一〇坪六合六勺

を被上告人に明け渡すことを命ずる仮処分命令を得、同年一一月一日突如として人

夫約一五〇名を使用して東京地方裁判所執行吏による右仮処分すの執行に着手して

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目的物件の一部明渡しを断行し、引き続き明渡建物の取毀しを行ない、さらに残余

の建物に対する執行の気構えを見せて威迫した上、同月四日被上告人訴訟代理人に

おいて、上告人A3に対し、本件上告の取下げを含む示談契約書への捺印を強要し

た。上告人A3はやむなくこれに応じ、上告人A3の所持する印章を相手方に托し

た。しかしながら、上告人A3は、弁護士Dに上告取下を委任したものではない。

仮りに、これにより右Dに対する本件上告取下の訴訟委任をしたことになるとして

も、それは、上告人A3がその自由な意思を抑圧され、抗拒不能の状態においてな

されたものであるから、右訴訟委任の意思表示は無効である。仮りに、右訴訟委任

が単に強迫による意思表示にすぎないものであるとしても、上告人A3は、同年一

二月二日被上告人に対し内容証明郵便により被上告人との間の前記示談契約を取り

消す旨意思表示をしたから、右訴訟委任は、これにより失効したものというべきで

ある。また、上告人A3は、被上告人訴訟代理人との交渉過程において同人より虚

偽の事実を告げられ、これにより錯誤に陥つて前記示談に応じたものであるから、

右Dに対する訴訟委任は要素の錯誤により無効である。

なお、上告人A3が弁護士Eに本件上告事件の訴訟委任をしたことは認めるが、

右訴訟委任につき、上告取下および復代理人選任の特別授権をしたことおよび右E

がDに対し本件上告事件につき復委任をしたことは否認する。

被上告人訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、その理由として、つぎの

ように述べた。

本件は、上告人らがその自由な意思によつて上告取下の訴訟委任をなした弁護士

Dが昭和三八年一一月五日最高裁判所に上告取下書を提出することにより終了した。

なお、上告人らは、弁護士Eに対し、上告取下および復代理人選任の特別授権を含

む訴訟委任をしているところ、右Eは、昭和三八年一一月二日弁護士Dを本件上告

事件に関する復代理人に選任したから、右Dのなした前記上告取下は、右の理由に

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よつても有効である。弁護士Dに対する右訴訟委任およびその上告取下は、つぎの

事情によるものである。

上告人A3主張の宅地建物は、昭和三〇年一一月一九日代物弁済により被上告人

の所有となつたものであるが、上告人らは、被上告人の所有権を否定し、その明渡

しを拒み、被上告人の提起した右物件の明渡訴訟においてもその訴訟進行に非協力

の態度を示して訴訟の引延しをはかり、あまつさえ物件の現状変更を敢えてするに

至つたので、被上告人は、それによる損失の累増を回避するため、東京地方裁判所

に対し上告人らを相手方として右物件を明け渡すべき旨の仮処分申請(昭和三八年

(ヨ)第五四七四号)をなしたところ、昭和三八年一〇月三一日同裁判所より被上

告人の申請を容認する旨の決定を得た。よつて、同年一一月一日その執行に着手し

たところ、上告人A3らより示談の申入れがあつたので、その執行を一部に止めて

中止した。同年一一月二日および四日の両日にわたり、上告人らにおいて選任しか

つ弁護士Eにおいて復委任した弁護士Dが上告人A3を同行して被上告人の代理人

である弁護士Fの法律事務所を来訪し、ここに双方の代理人間において協議の結果、

被上告人は上告人らに対し家屋立退きに関する費用として一二〇〇万円を贈与する

こと、上告人らは、物件の任意明渡し、本件上告の取下げ等を実行することを内容

とする示談契約が円満に成立したものである。その間、右Dは、右Eと協議の上で

この合意に達したものであり、上告人A3自身も自ら右示談契約書に署名捺印して

いるほどであるから、本件上告の取下げは、上告人らの自由な意思に副つて適法な

授権の下になされたものと推認せざるをえない。

証拠として、上告人ら訴訟代理人は、上里一号証の一ないし一二、同二ないし四

号証、同七、同八号証を提出し、検上甲一、同二号の検証の結果ならびに上告人A

3、同A1、同A2の各本人尋問の結果を援用し、上乙一号証の一ないし四、同三

号証、同七号証の成立を認め、同八ないし一〇号証は、特別授権事項の記載部分の

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成立を争い、その余の部分の成立を認め、また、同二号証の一、二、同四号証、同

五号証、同六号証の一、二の各成立を争い、ただし、右書証に押捺されている印影

がそれぞれ各上告人の印章によるものであることを認めた。

理 由

弁護士Dが上告人らの訴訟代理人名義で昭和三八年一一月五日当裁判所に本件上

告の取下書を提出したこと、および上告人らはいずれも弁護士Eに対し本件上告事

件につき訴訟委任をしたことは、当事者間に争いがなく、その署名捺印の成立につ

き争いがないから、その真正な成立を推定すべき上乙八ないし一〇号証によれば、

上告人らは、右訴訟委任に際し、上告の取下げおよび復代理人選任の特別授権をし

たことが認められる。

証人G、同Dの各証言、その成立に争いがない上乙一号証の二、証人Dの証言に

より成立が認められる上乙二号証の一および前記上乙八ないし一〇号証によれば、

つぎの事実が認められる。

被上告人は、昭和三八年一〇月三一日東京地方裁判所同年(ヨ)第五四七四号不

動産仮処分命令申請事件において、上告人らが居住もしくは営業用に使用中であり

かつ本件上告事件の係争物件である上告人A3主張の宅地建物を上告人らより被上

告人に明け渡すことを命ずる仮処分命令を得、同年一一月一日東京地方裁判所執行

吏により右仮処分の執行に着手した。上告人A3は、この事態に対処するため、前

記E弁護士の法律事務所において右Eを中心とし上告人らより本件上告事件の訴訟

委任を受けていた弁護士Gを交えて協議した。その際、E弁護士は、その知人であ

つてこのような事態における相手方との交渉に適任であると思つた弁護士Dをして

被上告人の訴訟代理人である弁護士Fに交渉せしめるりが適当であると考え、右D

を前記事務所に招いて、本件上告事件の処理を含め、F弁護士に対する折衝および

示談契約の締結を委任した。右Dは、同月二日上告人A3を同道し、F弁護士の法

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律事務所に赴いて同人と折衝し、その交渉経過を逐一右Eに報告して相談した結果、

上告人ら側としては右建物の立退費用として一二〇〇万円を被上告人より贈与を受

けることとして前記物件の任意明渡し、本件上告事件の取下げ等被上告人側におい

て提示した示談条項を受諾するのほかはないものと判断し、同月四日、右F弁護士

の法律事務所において右旨を記載した契約書に上告人ら代理人名義で上告人A3と

共に署名し、よつて同弁護士との間に右内容の契約を締結した。D弁護士は、右示

談契約の実行のため、上告人A3よりその趣旨で交付を受けた各上告人らの印章を

使用して上告人らより右Dに対する本件上告取下の特別授権を記載した訴訟委任状

を作成し、これを添付して上告人らの代理人名義で同月五日前認定の上告取下書を

当裁判所に提出したものである。以上の事実認定に副わない上告人A3の証言は信

用できないし、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。

以上の次第であるから、弁護士Dは、上告人らの訴訟代理人であつて、上告取下

および復代理人選任の権限を有するEより本件上告事件の取下げを含む本件紛争一

切を処理する復代理の委任を受け、その授権に基づき本件上告事件の取下げ手続を

なしたものというべきである。しからば、前記D弁護士の折衝過程に終始関与した

上告人A3において本件上告取下の無効をいうことが理由のないのはもちろん、上

告人A1、同A2においても、たとえD弁護士に直接面接していないし、また、上

告人A3より上告取下の諒解を求められていなかつたとしても、なお、本件上告取

下の無効をいうことは理由がないものといわなければならない。

よつて、本件上告は取下げによつて終了したものであるから、訴訟費用の負担に

つき訴訟法九五条、九三条を適用し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決

する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 入 江 俊 郎

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裁判官 長 部 謹 吾

裁判官 松 田 二 郎

裁判官 岩 田 誠

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