大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和46(あ)365 判決

主 文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理 由

弁護人立石六男の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、いず

れも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

しかし、所論に鑑み職権をもつて調査すると、

一、原判決が是認した第一審判決は、要するに、被告人は、A計量機器株式会社(

以下「A計量機器」と略称する)の業務担当取締役であるが、同会社の新工場設備

工作機械として、昭和三九年一月下旬頃合名会社B商店(以下「B商店」と略称す

る)から円筒研削盤一台(以下「本件機械」と略称する)を代金(四二〇万円)割

賦弁済、代金完済まで売主に所有権を留保する旨の約定で買受け、右B商店のため

保管中、右代金完済前の同年四月一五日A計量機器総務課長Cをしてこれを他の新

工場設備機械類とともに工場財団を組成する旨登記申請させて工場財団を設定させ

たうえ、株式会社D相互銀行、日本開発銀行、産炭地域振興事業団などの合計七、

四〇〇万円の融資の担保として、右工場財団に抵当権設定登記手続をさせ、もつて

本件機械を横領したものであるとの事実を認定し、また、原判決は、原審弁護人の

被告人が右横領の犯意を欠くとする事実誤認の控訴趣意を排斥し、第一審判決を維

持しているのである。

二、しかし、本件記録によると、A計量機器は、昭和三七年秋事業拡張に伴う新工

場建設用地として、産炭地域振興事業団などの斡旋により産炭地域に進出すること

を決定し、昭和三八年秋同事業団および日本開発銀行から産炭地域進出第一号の企

業として合計五、九〇〇万円の新工場設備資金の融資を受け、これに自己資金など

を加え合計約一億二、〇〇〇万円を投じ昭和三九年三月新工場を完成したものであ

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るが、本件機械の購入当時、右政府関係金融機関の融資によつて産炭地域に進出す

る発展段階の企業として、対外的にも極めて信用度が高く、また、新工場設備工作

機械の売込競争が激しく行なわれて、買手市場の状況にあつたこと、同会社は、右

政府関係金融機関に対し、その融資の担保として、新工場完成の時点で新工場設備

に工場財団を設定し、これに抵当権を設定することを約しており、被告人は、本件

機械を含む新工場設備工作機械を購入する時、既にこれらを工場財団に組入れるこ

とを予定していたこと、被告人は、新工場設備工作機械のうち、B商店から本件機

械を、株式会社Gからラジアルボール盤および立型フライス盤(代金合計五九〇万

円)を、H商事株式会社から旋盤三台(代金合計四三二万円余)を、それぞれ長期

の代金割賦弁済、所有権売主留保の約定で購入し、右売買契約書上の約款では右割

賦購入機械を他人の権利目的とすることが禁じられているが、新工場完成の時点で

本件機械を含め右割賦購入機械を工場財団に組入れ、これに前記融資のため抵当権

を設定したこと、被告人は、捜査段階から公判を通じ終始一貫して、右割賦購入機

械の買受交渉に際し、その購入先の販売担当者等に対し、右機械を工場財団に組入

れ抵当権の目的とすることについて許諾を求め、口頭でその了承を得ていた旨主張

しており、現にGから購入したラジアルボール盤等について、その販売担当者Iは、

被告人から右趣旨の許諾を求められたので、これを売買契約書上の処分禁止約款と

は別に口頭で了承したことを認めており、Gとしても右許諾を認めていること、ま

た、被告人は、H商事から購入した旋盤について、当初他社から購入予定であつた

が、右許諾を得ることが不可能であると判明したことも一つの事情となつて購入先

をH商事に変更したこと、A計量機器は、新工場完成後程なくして経営内容が急激

に悪化し、同年八月事実上倒産したため、被告人は、B商店の告訴により本件機械

についてのみ横領として起訴されたものであることをそれぞれ窺うことができる。

以上の事実に徴すると、被告人は、既に新工場建設の過程において、新工場完成

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の時点で工場設備に工場財団を設定し、これに抵当権を設定することを予定してい

たものであるから、工場設備工作機械を代金割賦弁済、所有権売主留保の約定で購

入する場合には、購入先から右工作機械に対し抵当権設定の許諾を得べく、この点

を購入の重要な条件としていたことは推測するに難くないのであり、本件機械購入

当時のA計量機器の高度な対外的信用状況、工作機械の買手市場の状況に照らし、

販売側の会社担当者らが被告人の右許諾の求めに応ずる方式は別として、代金回収

の危倶を全く抱くことなく、これに応じ得る状況にあつたものと認められる。そし

て被告人がGから割賦購入した前記工作機械について、その担当者から売買契約書

上の約款とは別に、口頭で右許諾の了承を得てGとしても異存がない事情や、旋盤

の購入先をH商事に変更した理由の一つとして右許諾の諾否が関係している事情を

併せ考えると、被告人は、本件機械の購入に当つて、B商店の販売担当者Jに対し、

右許諾を求めたものと認めるに十分である。この点について、右Jは、第一審公判

廷であいまいな証言をしているに過ぎないのであつて、前記の客観的状況に照らし、

本件機械に関する売買契約書上の約款にかかわらず、被告人と右Jとの間には口頭

による右許諾があつたものと疑うに十分である。そして、右口頭の了解事項がB商

店の許諾として私法上の効果を生ずるか否かは別として、また、被告人が右了解を

もつてB商店の許諾があつたものと考えた点に落度があるか否かは別として、被告

人が右口頭の了解事項をもつてB商店の許諾があつたものと考えていた趣旨の弁解

を直ちに虚偽であるものと断じ去ることはできないものと解される。しかも、被告

人が真実B商店から右許諾を得ていないものと認識していれば、本件機械のみを除

外して工場財団を組成する余地も十分存するのであり、記録上、本件機械を除外す

ると前記融資に重大な支障を来たす事情は窺われず、被告人が発展段階にある企業

の業務担当取締役として、何故に本件機械を敢て横領してまで工場財団の組成物件

としなければならないのか、その合理的理由の存在について疑問の存するところで

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ある。

ところで、原判決は、本件横領罪の成否が専ら被告人においてB商店から本件機

械につき抵当権設定の許諾を得ていたかどうかに帰するとして、概ね被告人が本件

機械を購入した当時の前掲客観的事情を認定しながら、被告人が本件機械の購入に

当つて、実質的に売買交渉の相手となつたのは商事会社Kであり、同会社の都合で

B商店がその販売先となつたに過ぎず、右Kの内規では割賦販売の工作機械を買主

が担保に供することを禁じ、例外的に抵当権設定を許諾する場合には書面に明示す

ることを定められており、A計量機器が本件機械購入当時右許諾を求め得る有利な

立場にあつたのであれば、書面による右許諾を容易に得られ、かつこれを得るのが

普通であるから、これがない本件では右許諾を認め難いとし、被告人の本件横領の

犯意を是認した第一審判決を維持しているのであつて、原判決は、判決に影響を及

ぼすべき重大な事実誤認があることを疑うべき顕著な事由があるに帰し、これを破

棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よつて、刑訴法四一一条三号により、原判決を破棄し、同法四一三条本文により、

本件を原裁判所である福岡高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見

で、主文のとおり判決する。検察官鹽野宣慶 公判出席

昭和四六年一二月九日

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 岩 田 誠

裁判官 大 隅 健 一 郎

裁判官 藤 林 益 三

裁判官 下 田 武 三

裁判官 岸 盛 一

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