大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和47(あ)1527 決定

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人松本晶行、同佐藤昭雄の上告趣意について。

原判決は、道路交通法八八条一項二号の規定が、自動二輪車の運転免許につき、

「耳がきこえない者」に対し免許を与えないこととし、同法施行規則二三条が適性

検査の合格基準として一〇メートルの距離で九〇ホンの警音器の音がきこえること

及び聴力検査に際し補聴器の使用を禁止する措置(昭和三九年九月二五日付警察庁

交通局運転課長通達による)がとられていることは、憲法一四条、二二条に違反し

ない旨の憲法解釈を示しているのであるが、さらに、原判決は、被告人が自動二輪

車を無免許で運転したことにつき、緊急避難を認めるに足りる現在に差し迫つた危

難と目すべき事情も、被告人が自己の権利を保全するため他に適当な方法がなく自

動二輪車の無免許運転をせざるを得なかつた事情も共に認められないから、緊急避

難ないし自救行為の主張は理由がない旨判示しているところである。従つて、原判

決の右憲法解釈の当否は、被告人の本件無免許運転行為を違法とする原判決の結論

に何んら影響を及ぼすものでないことは、その判示自体において明らかである。そ

うすると、所論違憲(一四条、二二条、三二条、三七条違反)の主張は、原判決の

結論には何ら影響を及ぼさない原審の憲法解釈を非難するものに帰するから、刑訴

法四〇五条の適法な上告理由にあたらない(なお、被告人が、運転免許を与えられ

ないことに不服があれば、運転試験拒否処分ないし適性不合格処分を対象として、

行政訴訟によりこれを争うのが筋道であるところ、その手続によることなく本件無

免許運転行為を敢えてしながら、運転免許が与えられないことを違法であるとして

自己の行為を正当づけることはできないばかりでなく、道路交通法の定める運転免

許制度の下では、運転資格は、運転免許証の交付を受けることによつて始めて生ず

- 1 -

るものであるから(同法九二条一項、昭和三一年(あ)第一一六六号同三三年一〇

月二一日第三小法廷決定・刑集一二巻一四号三三六一頁参照。)、所論違憲の主張

の当否にかかわりなく、被告人につき、無免許運転の罪が成立するといわざるをえ

ないのである。)。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、

主文のとおり決定する。

昭和四九年九月二六日

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 岸 盛 一

裁判官 大 隅 健 一 郎

裁判官 藤 林 益 三

裁判官 下 田 武 三

裁判官 岸 上 康 夫

- 2 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!