最高裁判所第一小法廷 昭和47(あ)248 判決
主 文
原判決を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理 由
弁護人桜川玄陽の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、いず
れも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
しかし、所論にかんがみ、職権で調査するに、第一審裁判所は、「被告人は、自
動車運転の業務に従事するものであるが、昭和四四年一〇月一日午前三時四〇分頃
大型貨物自動車を運転し時速約六〇粁で碧海郡a町大字b字cd番地先国道一号線
を西進中、前方を同方向に進行していたA運転の大型貨物自動車を追い抜きしよう
とした際、そのころ反対方向からB運転の大型貨物自動車が対面進行中であり、同
車ともすれ違いをする状況になつたのであるが、このように三車両が一度にすれ違
いをすることは各車両の間隔がすれすれであつて、危険であるから追い抜きを差し
控え事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、敢えて同速度の
まま前記A車両を追い抜いた過失により、その追い抜き直後、前方に近迫していた
B車両とすれ違いをするにあたり、危険を感じて左転把し、自車の後半部をセンタ
ーラインの右側にはみ出してB車両の右前部に接触させて同人に運転を誤らせて右
側に暴走するに至らしめ、折りから反対方向(東方)から対面進行して来たC運転
の大型貨物自動車の右側部にB車の前部を衝突させて同人に加療約一〇日間を要す
る顔面、右膝挫傷等を与え、更に同車の後方に追従していたD運転の大型貨物自動
車の右側にもB車前部を衝突させて、同人に加療約二週間を要する胸部等挫傷を与
え、同車に同乗していたEに加療一〇日間を要する左前腕挫傷、左足挫傷の各傷害
を与えたものである。」との事実を認定して被告人に有罪の判決を言い渡したとこ
ろ、右過失の認定を争う被告人の控訴に対し、原審は、右第一審判決の認定判断を
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維持是認して右控訴を棄却する判決を言い渡した。
しかし、原判決の判示するところによれば、本件事故現場付近の前示国道一号線
は、総幅員一三・六米、走行車線(路肩寄り)幅員各三・六米、追越し車線(セン
ターライン寄り)幅員各三・二米、片側二車線都合四車線の道路であつて、被告人
は、大型貨物自動車(車幅二・四九米、車長一〇・五八米、積載定量一〇屯、以下
「被告人車両」という。)を運転し、本件事故現場付近の道路の追越し車線に入つ
て西進し、走行車線を先行するA運転の大型貨物自動車(車幅約二・五米、車長約
一一米、積載定量一一屯)を追い抜こうとしたところ、反対方向からB運転の大型
貨物自動車(車幅二・四九米、車長一〇・五〇米、積載定量一一・五屯、以下「B
車両」という。)が対進してきたというのであるから、以上の各車両がそれぞれ自
己の進行車線を走行すれば、特別の事情のない限り、互に接触する危険はない筈で
ある。ところで、原判決は、被告人は、センターライン一杯に追越し車線を時速約
六〇粁で走行し、A運転の車両を被告人車両の半分位追い抜いたとき、同じくセン
ターライン寄りを走行して来たB車両とすれ違いをする際、同車との接触衝突の危
険を感じて左に転把し、そのため被告人車両の荷台後部をセンターラインの右側に
(被告人車両の進行方向に向つて)少しくはみ出させて、B車両の右前部に接触さ
せた旨判示しているが、原判決は、一方被告人車両との本件接触事故により、被告
人車両は、その前部右側バツクミラーが破損し、右側後輪タイヤの外側に約一〇セ
ンチメートルの亀裂を生じ、中のチユーブが覗かれ、同後輪のホイルリム部が曲損
していることが認められる旨判示しているのである。そうすると、原判決の認定す
る事実を前提とすれば、被告人車両とB車両との接触は、両車両が対進中、まず被
告人車両の前部右側バツクミラーがB車両と接触し、次いで被告人車両の荷台後部
がB車両の右前部と接触衝突したものと解せざるを得ない。何となれば、被告人が
自車を左転把して自車荷台後部をセンターラインの右側にはみ出させたため、被告
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人車両の荷台後部がB車両の右前部と接触衝突したものならば、それ以前に自車前
部右側バツクミラーが破損することは、特段の事情がない限り考えられない。被告
人もしくはBに当時前方注視義務違反があつたとか、被告人車両またはB車両のい
ずれか一方が、何んらかの事情により、突然センターラインを越えて相手車両の進
行車線内に進入したとかいう特別の事情でもない限り、原判決の説示する両車両が
当時センターライン寄りを対進接近中であつたという事実のみをもつてしては、直
ちに、被告人車両の前部右側バツクミラーの破損を合理的に説明できる特段の事情
とはなしがたいものといわなくてはならない。してみると、原判決および第一審判
決は、右特段の事情のあることを何んら確定していないことに帰し、被告人が左転
把したため被告人車両がB車両と接触した旨の第一審判決をたやすく是認した原判
決は、事実の認定を誤つた疑いがあり、これを破棄しなければ著しく正義に反する
ものと認むべきである。
よつて、刑訴法四一一条三号により、原判決を破棄し、更に審理させるため、同
法四一三条本文により、本件を原裁判所である名古屋高等裁判所に差し戻すことと
し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
検察官 蒲原大輔公判出席
昭和四七年一一月一六日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 岩 田 誠
裁判官 大 隅 健 一 郎
裁判官 藤 林 益 三
裁判官 下 田 武 三
裁判官 岸 盛 一
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