大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和58(あ)309 判決

主 文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理 由

検察官の上告趣意のうち判例違反をいう点は、原判決は、所論の前科があるとし

た上で、本件につき刑の執行猶予の言渡しをすることができる旨の法律判断を示し

たものではないから、所論は前提を欠き、その余は、単なる法令違反の主張であつ

て、いずれも適法な上告理由にあたらない。

しかしながら、所論にかんがみ、職権で調査するに、記録によれば、被告人は、

昭和五七年八月二一日から二二日にかけて行つた本件詐欺の犯行につき、同年一〇

月二七日第一審において懲役六月の判決の言渡しを受け、控訴を申し立てたが、昭

和五八年一月二八日原審において量刑不当を理由に、「原判決を破棄する。被告人

を懲役六月に処する。原審における未決勾留日数中三〇日を右の刑に算入する。こ

の裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。」との判決を受けたもので

あるところ、記録に編てつされた昭和五八年四月六日付前科調書によれば、被告人

に対しては、昭和五七年七月九日京都地方裁判所において窃盗罪により懲役一年六

月、執行猶予四年、保護観察付きの判決が言い渡され、右判決は同月二四日確定し、

被告人は、原判決言渡し当時右保護観察付執行猶予期間中であつたことが認められ

る。

したがつて、本件は刑法二五条二項但書の場合にあたり、被告人に対しては、再

度刑の執行を猶予することができないものといわなければならない。

しかるに、記録によれば、原審は、右保護観察付執行猶予の前科の記載のない昭

和五七年八月二四日付前科調書を取り調べたのみで、被告人には執行猶予を付する

について障害事由のないものと認め、前記執行猶予を言い渡したものであるが、第

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一審において取り調べられた被告人の司法警察員に対する昭和五七年八月二二日付

供述調書中には、被告人が本件犯行前に別件の窃盗罪により懲役一年六月、執行猶

予四年の判決を受けた旨の供述記載もあつたのであり、原審としては、検察官に立

証を促す等の方法を講ずることにより容易に右保護観察付執行猶予の前科が存在す

ることを確認することができたものと認められるのに、原審が右の措置を講ずるこ

となく被告人には執行猶予を付するについて障害となる事由が存在しないと認めた

ことは、審理を尽くさず事実を誤認し、ひいて刑法二五条の適用を誤つたものとい

うべきであり、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、これを破棄しな

ければ著しく正義に反するものと認められる。

よつて、刑訴法四一一条一号、三号により原判決を破棄し、さらに審理を尽くさ

せるため、同法四一三条本文により、本件を原審である大阪高等裁判所に差し戻す

こととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

検察官 井上五郎 公判出席

昭和五八年一〇月二〇日

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 谷 口 正 孝

裁判官 団 藤 重 光

裁判官 藤 崎 萬 里

裁判官 中 村 治 朗

裁判官 和 田 誠 一

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